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法華狼の日記

2016-03-22

[][][]木村幹氏が吉方べき氏に剽窃されたと主張している件についてメモ

朝日新聞による下記の吉方インタビューは、なかなか興味深い内容だった。

(慰安婦問題を考える)挺身隊との混同、韓国では 韓国在住の言語心理学者・吉方べき氏に聞く:朝日新聞デジタル

歴史学者の文定昌(ムンジョンチャン)氏が67年に出版した歴史書(資料〈4〉)にはこう記されています。〈1933年ごろからは花柳界朝鮮人日本人女性たちを慰安婦という名称で満州から北支(中国北部)方面に出動させたが、その数は世間では二〇〇千人と言われたものであり、41年ごろからは良家の乙女たちを強奪して女子挺身隊という名をつけ、どこかへと連行し始めた〉

これまで考えられていたより以前から従軍慰安婦20万人説が存在したという。それが一般化された源流かどうかは議論が必要だとしても、それが事実ならば意義のある調査だろう。


しかしその前段にあたる挺身隊と慰安婦の混同の時期について、研究が剽窃されたと木村幹氏がツイートしていた。下記Togetterに異論反論とともにまとめられている。

木村幹VS吉方べき〜「これ俺が論文で書いた内容そのままや」と木村幹激怒〜 - Togetterまとめ

しかし論文ならぬ新聞の、それもインタビューにおいて先行研究への言及が省略されている場合、一般的には新聞社が話の紙幅の都合を疑うべきだろう。吉方氏自身の雑誌寄稿では先行研究にふれているならなおさらだ。

そもそも剽窃されたという挺身隊と慰安婦の混同については、木村氏以前に2014年8月の朝日検証でもとりあげられている。研究者として高崎宗治の名前も出ている。

http://www.asahi.com/shimbun/3rd/2014080517.pdf

つまり朝日報道以前から混同されていたという学説は、初めて朝日新聞に掲載されたわけではない*1。吉方インタビューも「慰安婦問題を考える」という朝日検証の一環として出されている以上、むしろ先行研究の存在は前提だろう。

朝日新聞が会社として吉方氏に飛びついたとは考えにくいし*2、インタビューで先行研究が省略されるのは不自然だとは思わなかった。知られている通説ならばなおさらだ。

木村氏の主張を知らず、朝日検証を読んでいた私としては、前段までは既知の結論を異なる資料で裏づける報道の領分だと思ったし、あくまで後段に新説を提示する準備と読みとった。逆にいえば私にはバイアスがあるわけで、先行研究を知らなければ吉方インタビューの前段も独自の発見と読みとる可能性は否定しない。


しかし上記Togetterにツイートがまとめられた以降も、両氏のツイートは続いている。

そこで、まだまとめられていない範囲のツイートや、過去の情報をいくつかメモしておく。

他意はなく、できれば和解できることを望んでいる。


まず、木村氏が示した「剽窃」の定義は下記ツイートのとおり。

その前提として、結論が同じであれば研究として無意味だともツイートしていた。

木村氏自身が原稿で先行研究にふれていなかったことについては、下記ツイートのように説明

しかしこの説明が正しいとしても、木村氏の論理では「剽窃」でこそなくても「いかなる学術的価値もない」ことにならないだろうか。

第三者としては勇み足というか、言葉が強すぎたように感じる。


また、木村氏が剽窃されたという論文のひとつは下記ツイートで紹介。2015年1月にインターネットで公表されたものだった。

冒頭*3で言及もしているように、2014年8月の朝日検証を受けた内容。

http://www.research.kobe-u.ac.jp/gsics-publication/jics/kimura_22-2&3.pdf

「第2章」で同じように新聞データベースをもちいているが、引用されている資料は吉方インタビューと異なっている。先述のツイートで木村氏が「陳腐化している情報をあたかも、見かけだけ変えて」と表現したのは、異なる資料を抽出したことを考慮してか。

具体的な資料としては新情報も示されているし、表現も構成も下記エントリほど酷似しているわけではない。比べるのは両者に酷だとは思うが、せっかくの具体例なので紹介しておく。

著作も出しているツイッタラー「井上太郎」が、「反日はどこからくるの」というブログのネタをパクっていたらしい件 - 法華狼の日記


そして、吉方氏が木村氏から影響を受けうる前から韓国内の報道を調べていたという主張について。

朝日新聞・吉田証言報道 元凶説の真偽、検証の原点(2014年9月22日放送「のりこえねっとTV」) - たびのあとさき by 吉方べき

「『朝日元凶説』は事実関係に反している」と私が最初に「発表」したのは、のりこえねっとTV、2014年9月22日放送分ミニコーナーでのことだった。

吉方氏のブログ記事を読むと、証拠として「のりこえネット」が公式にアップロードしたYOUTUBE映像が示されている。

D

視聴すると、たしかに韓国の過去の報道を調べていることが語られているし、挺身隊と慰安婦を混同しているとおぼしき記事も独自に引用されている。朝日検証を受けた調査としては早い動きだし、木村氏が論文を発表*4した以前には吉方インタビューの原型となる調査がおこなわれていた傍証だろう。

しかしブログ記事に対して木村氏は、「実は知ってた」という証拠があっても剽窃を否定できないと主張する。最低でもブログでなければ「何の意味もない」という。

もちろん研究者の業績としては論文として発表するのが正道だろう。しかしさすがに個人ブログよりは、第三者のWEBメディアの証拠能力が比較的に高いのではないか。

なお、木村氏が吉方氏と会ったのは2014年9月、WEBメディアに吉方氏が登場した直前のこと*5。そこで原稿についても話したと記憶しているそうだ。これについては木村氏自身も水かけ論になるだろうと語っており、第三者としては何ともいえない。

一方で吉方氏がいつごろから新聞を調べていたかというと、オフ会の直前に吉田証言の朝鮮日報初報をツイートをしている。どこから引いたかは不明だし、慰安婦と挺身隊の混同をめぐる話ではないが、木村氏の論文を知ってから調査をはじめたわけではなさそうだ。

万有引力の比喩で思い出したが、ニュートンには法則の発見にかかわる別の逸話がある。それはライプニッツの10年前に微分積分を発想していたが、公表は数年も遅れたというものだ。


ところで、オフ会に行ったことからわかるように、木村氏と吉方氏は友好的にやりとりしていた時期があった。

たとえば2014年10月にも下記のようにやりとりしていた。たぶん今回の吉方インタビューをめぐるやりとりからは想像しにくいだろう。

この時点では、両者が独立に並行して報道資料を調べていること、まだ吉方氏が木村氏の中央公論寄稿を読んでいないことを前提にやりとりしている。

これが剽窃のための前準備だとすれば信じがたい計画性ではある。他方で、何度もやりとりした結果として研究について影響はあっただろうし、それを否定されたと木村氏が感じた心情も想像はできる。

以前の関係に戻るのは難しいとしても、第三者としては無用の衝突は見たくないのだが。

*1:定着の時期までは論じていないが、朝日新聞の「都合」を憶測するならば、朝日報道以前であったことが結論として共通していれば十分だろう。

*2:「某紙」と名前こそ伏せているが、「都合のよい論者に、これまでその論者が何を書き、何をやってきたかを調べずに無条件に飛びつく」が指しているのは朝日新聞のことだろう。Kan Kimura (on DL)さんはTwitterを使っています: "しかし、「都合のよい論者に、これまでその論者が何を書き、何をやってきたかを調べずに無条件に飛びつく」という某紙の行動は、つい最近話題になった某TVコメンテーターの件とそっくりと思うんだけど、某紙の皆さんは

*3:PDF2頁目。

*4:なお、韓国における慰安婦と挺身隊の混同が1960年代に定着していたという見解そのものは、ツイッターにおいて2014年9月26日に公表している。Kan Kimura (on DL)さんはTwitterを使っています: "「挺身隊」という語を慰安婦を意味する語として用いる語法は韓国においては、遅くとも60年代には完全に確立している。第二次世界大戦終了からかなり早い時期に成立したんじゃないかな。"

*5:当時のツイートによると9月15日ごろにあったらしい。Kan Kimura (on DL)さんはTwitterを使っています: "さて、遅くなりましたが、今日(昨晩?)の食事会には25名もの方にお越しいただきました。十分にお話もできずに失礼いたしました。でも、とても楽しかったです。また機会がありましたらお会いしましょう!"

hokke-ookamihokke-ookami 2016/03/23 06:37 他にツッコミを入れたいことをいくらか知っているし、両氏に対する反応に多大な問題を感じているのですが、論点をしぼるために今エントリでは省略します。
とりあえず、インタビュー記事において、文責がインタビュアーとインタビューイのどちらにあるかは、もともと判断に迷うべきじゃないかしらん……

困ったことに、インタビューにおいて吉方氏の調査や結論が新発見だという読みが、本気で私にはありませんでした。あくまで朝日検証後の騒動で興味をもった個人が、「調べて」「分かった」という報告であって。それが新発見だとか新説だとかいう表現もありませんし、もともと論文の体裁でもない。
そもそも報道って、既知の報告や研究であってもそのメディアが初めて報じる時に「分かった」って表現しがちですよね。それが問題だという批判ももちろんありますが。

サトぽんサトぽん 2016/03/23 08:06 まだ斜め読みなのですが、これは面白い記事ですね。ご両人の「トラブル」の詳細はともかく、「挺身隊」の混同の経緯が、きちんと検証されて、表に出るのは非常にいいことだと思います。

千田の「慰安婦数」については、私も多少は議論に付け加えられるところがあるかなと思っていますので、もう少し、記事読み込んでから、コメントさせて頂きたいと思います。

だから、ウヨの皆さんも、その前に無意味なゴミコメントつけないでね。

サトぽんサトぽん 2016/03/23 08:10 でも、この記事書いた記者さんを、勉強不足と言うなら、木村さんは読売新聞に寄稿するのをやめた方がいいですね。これだけ消化できてたら、立派なもんです。

rawan60rawan60 2016/03/23 13:37 なんだかなぁ、としか言いようがないですねぇ……

先行を主張するのは良いけど、例えば植村記者バッシング時にどれだけその研究結果を公的に主張して対峙したんだよって。

社会で表立って取りざたされているその時でさえ、世のため人のために研究成果を使わないのなら、それこそ「いかなる学術的価値もない」だろうとしか……

ちなみに私も「吉方氏の調査や結論が新発見だという読み」は別段しなかったですね。
一般書籍でさえ、例えば写真家の伊藤孝司氏が92年に出している本の前文で、

『韓国では三・一節(独立運動記念日)や光復節(八・一五解放記念日)前には、マスコミは繰り返し日本の植民地支配の実態をドキュメントや物語として流したりしている。
ところが、それらの中では「従軍慰安婦」を「挺身隊」と同一のものとする誤った紹介がされてきた。そのため「勤労挺身隊」として働かされた女性たちは、誤解されることを恐れて口を閉ざしてきたのである。』

などと内情が紹介されていますしね。

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