音楽は国境を越えるか?渋谷発のネットレーベル・TREKKIE TRAXが目指す、"世界基準"の楽曲リリース

2016.03.22 18:30

2016年3月16日にレーベルのこれまでの活動の集大成として「TREKKIE TRAX THE BEST 2012-2015」をリリースした渋谷発のネットレーベル・TREKKIE TRAX。ネットレーベル黎明期に、数多のレーベルが登場し消えていく中で、なぜTREKKIE TRAXは成功できたのか。後編ではベスト盤に込めた思いや今のクラブシーンに対して感じていること、そして今後の展望まで話を伺った。【前編はこちら】渋谷で生まれたネットレーベルが全国・海外に進出、SXSW出演に至るまで--「TREKKIE TRAX」流のブランディング論

渋谷から世界に打って出るインディペンデントな音楽レーベル・TREKKIE TRAX。レーベルの中心メンバーを担うのは、futatsuki、Taimei(a.k.a Carpainter)、andrewと、現在はアメリカを中心に活躍するTaimeiの兄・Seimeiの4人。TREKKIE TRAXは主に若手のトラックメイカーによる純粋なクラブ・ミュージックのリリースを行い続けてきたレーベルで、とりわけダブステップ、ジューク、トラップなどの低音を強調したベース・ミュージックジャンルの日本における先駆的レーベルだ。

■"世界で戦える"水準の楽曲リリースを目指す

【写真左より】Carpainter(Taimei)、andrew、futatsuki

TREKKIE TRAXの4年間の軌跡を振り返った前編に引き続き、まずはTREKKIE TRAXがどのようなレーベルであるのかを読み解いていく。

ーーTREKKIE TRAXのレーベルの雰囲気を教えてください。

andrew:
雰囲気は、男子校っぽいですね(笑)。あと、世界中でアートっぽい雰囲気のレーベルが増えているのですが、僕らはお高くとまるよりもクラブでDJをしている集団でありたいと思っています。なので、東京でイケてるパーティーをやっているレーベルとして、活動していきたいですね。

ーーレーベルから楽曲をリリースする際の基準はありますか?

futatsuki:
現在は、日本国内だけではなく世界で受け入れられる楽曲のリリースを目指しています。具体的には、アメリカの現場でDJがかけてくれるような楽曲のリリースです。ゲームやアニメチックな楽曲は日本独特のカルチャーが色濃く出ていて、海外の一部には人気が出るのですが、世界水準にはなれないと思っています。なので、そこのバランス感覚を意識した楽曲をリリースしていきたいですね。

ーーでは、TREKKIE TRAXにとって、ネットでの楽曲リリースと、リアルの場としてのクラブはどのような位置づけですか?

andrew:
徹底しているのは、現場至上主義なこと。音楽の聴き方が多様化しているからこそ、クラブで価値ある体験をしてほしいです。音楽が家の中で完結するのではなく、リアルな場で楽しめるものをつくりたいと思っています。あとはTREKKIE TRAXとしてもリリースした楽曲が現場でプレイされる姿が見たいので、ただレーベルから楽曲をリリースして終わりではなく、リリースしてくれた人を現場にどんどん呼んで、実際にプレイしてもらいたいですね。

■音楽がすぐ消費される時代において、CDをリリースする意味

実際にアルバムを手に取り、楽曲を振り返るTREKKIE TRAXメンバー

"世界水準"を意識し楽曲をリリースしてきたTREKKIE TRAXだが、今回のベスト盤「TREKKIE TRAX THE BEST 2012-2015」は世界で最も影響力があると言われる音楽メディア「Pitchfork」にも掲載、その勢いはとどまるところを知らない。なぜ結成4年のタイミングでベスト盤をリリースしようと思ったのか。物凄いはやさで音楽が消費される現代において、CDが持つ意味をこう語る。

futatsuki:
今は技術の進歩のおかげで誰でも楽曲をすぐつくれますし、それをSoundCloudに上げることができます。すごいサイクルで音楽が生まれ消えていく中で、音楽シーンが成熟しないことに、疑問を感じました。DJだからこそ、その消費の早さを実感していて、自分たちのレーベルの楽曲はその流れに飲まれたくないと思っています。

ネットレーベルは、基本的にフリーで楽曲配信をするわけじゃないですか。なので、今回のベスト盤に収録をされている楽曲を各々がダウンロードし、プレイリストを作ればアルバムをそのまま再現できるんです。でも、それでは面白くない。一回リリースしている楽曲でも、もう一度パッケージし直せば色んな人に届くかもしれないし、楽曲に新しい価値を与えることができるかもしれません。日本は未だにCDに価値がある国ですし、CDで出せるからこそ「TREKKIE TRAXが手がけてきた音楽をまとめてみようか」と思ったんです。

僕自身、小さい頃からCDを聴いて育っているので、CDに対してメディアとしての特別な憧れがあります。きっと、各々のリスナーにも同じようなCD体験があると思うんです。音楽の聴き方が変わることによって、「SoundCloundで10秒だけ聴いて買う」ようなことが当たり前になるかもしれませんが、「わざわざCDを購入して聴くこと」のほうが感動体験やワクワク感を提供できると思っています。それを、あえてインターネットにフリーで流通している曲でやるのが、味があって良いですよね(笑)。

ーータワーレコード新宿店・渋谷店・横浜店で2週間先行発売をしたそうですが、その理由は?

futatsuki:
いま日本のCDショップで、とりわけJ-Clubのコーナーがきちんと存在しているのは、おそらくタワーレコードの渋谷店と新宿店くらいなんです。そこで一定の盛り上がりがあれば、他の店舗やCDショップにも展開していきやすい。なので、それらの店舗で先行発売しました。

ーーベスト盤での印象深い1曲を教えてください。

TREKKIE TRAX THE BEST 2012-2015

Carpainter:
「Journey To The West」です。「ガラージのトラックメイカー」と思われていた自分が、それを脱することを意識してつくった、転換期の中の一曲です。

andrew:
悩んだのですが自分の曲ということもありまして「Funky Beatz」かなと......。TREKKIE TRAX CREW SETでの出演をはじめた時に、その中でプレイできるアンセムを自分でつくりたかったんです。

futatsuki:
「Sampling Magic」です。このベスト盤のためにつくってもらった楽曲ではないんですが、ちょうどAMUNOAから今までのTREKKIE TRAXの楽曲のサンプリングのみでつくられた楽曲が送られてきたんです。TREKKIE TRAXの3年間が物理的にもまとまっていて、ハッとさせられます。

Seimei:
「Seimei & Taimei - Everlasting 2013」です。全曲思い入れがあるので悩みましたが、やはりTREKKIE TRAX最初期にリリースしたこの曲かと。

■「音楽で食っていく」ための可能性

続いて取り上げるのは、TREKKIE TRAXと音楽ビジネス。「無料で音楽を配布する」形態のネットレーベルとしてスタートしたTREKKIE TRAXだが、現在はTシャツの物販やCDリリース、国内外のツアーや海外アーティストの招致など、幅広い音楽ビジネスを手がけている。そんなTREKKIE TRAXが4年間の活動の中で感じてきた、日本のクラブシーンの問題とは何か。

ーー活動初期である2012年から2016年に至るまで、日本のクラブシーンはどう変化したと思いますか?

futatsuki:
ULTRA JAPANなどの海外から持ち込まれたEDMのフェスが流行っていて、盛り上がっていますね。大きく捉えると、海外のクラブ系アーティストがよく来日するようになり、だんだんマネタイズできるようになってきました。ただしそれはフェスだけで、僕たちのベース・ミュージックシーンでもマネタイズできるかというと違うと思っています。

僕らとしてはこの4年間で出られる舞台も大きくなりましたし、自分たちのまわりにベース・ミュージックのトラックメイカーやDJが増えたと思います。2012年当時は若い世代でベース・ミュージックをプレイするDJはほとんどいなかったのですが、今は渋谷にベース・ミュージックのシーンをつくることはできました。

ーーでは、東京のクラブシーンをどう変えていきたいですか?

futatsuki:
より良い音楽をより多くの人に届けられるようなシステムをつくりたいですね。日本のクラブシーンが、より音楽に寄り添ったものにならないといけない。現状、お客さんがしっかり来て収益化できるのはEDMだけで、それ以外はアングラ扱いになってしまうんです。

ーー音楽で食べていくことは考えていますか?

futatsuki:
僕らみたいなインディペンデントな音楽レーベルが日本国内で収益化できるようになるのは難しいと思っています。音楽で食っていきたいのなら、海外に行くか他のことをやるしかない。なので、現状は考えていません。 例えば、2020年の東京オリンピックに向けてインバウンド需要としてクラブに人が入るかもしれませんが、それは、EDMを流すような大きなクラブだけなんです。だって日本人が海外に遊びに行った時に、とりあえず地元で有名な大きなクラブに行きますよね? それと同じで、"アングラ"の価値を届けるのはなかなか難しい。

でも、考えられる可能性はふたつあると思っています。ひとつ目は、純粋に良い曲を出し続けて、世界中でバズらせること。今の時代ならアメリカ以外の国のアーティストでも「ストリーミングで1000万再生」を起こせるんです。インターネットを使った音楽のバズは誰でも起こせると思っています。TREKKIE TRAXを代表するような曲がバズって、売上がレーベルに入ったら可能性は見えてくるかもしれない。

もうひとつは、TREKKIE TRAXが日本を代表するレーベルとして知名度を挙げること。世界の大きな流れとして、Mad Decent、Night Slugs、Butterzなどの名門レーベルが世界中をまわるレーベルショーケースライブを行っているんです。TREKKIE TRAXの知名度が挙がれば、世界の色んな国から呼ばれて収益化できる可能性が出てきます。

でも、やっぱり今の段階ではTREKKIE TRAXはビジネスではなく趣味のようなもの。今まで出てきた数多のネットレーベルも、ほとんどが消えてしまいました。なので、収益化して良い循環をつくらなければいけないのです。

■アジアという括りで、世界を目指す

ーーそんな中で、これからレーベルをどのように広げていくのでしょうか?

futatsuki:
海外や日本で有名なDJやトラックメイカーの楽曲をリリースして、TREKKIE TRAXをより大きくしていきたいですね。有名なトラックメイカーでも「自分自身でフリーダウンロードで出すくらいなら、レーベルを通して出したほうがいい」という感覚を持っていたり、日本でプロモーションしたいという思惑があったりして、僕達のようなレーベルにも楽曲を提供してくれるんです。

あと注目しているはアジアのシーンです。中国・韓国......どこのアジアの国でも良いのですが、まだまだ才能があるアーティストがたくさんいると思うので、アジアという括りでアメリカに進出していきたいと思っています。

ーーそれでは最後に、TREKKIE TRAXとしての目標と、4人の個人としての目標を教えてください。

futatsuki:
TREKKIE TRAXの目標としては、日本の音楽をより世界に届けていくことです。2015年に世界とのつながりをつくることができたので、2016年はそこでできたコミュニティや、つながりを強化して、レーベルの規模感を大きくしていきたいと思っています。

個人としての目標も、僕はTREKKIE TRAXの中で唯一楽曲をつくっていないディレクターの立場なので、レーベルがより大きくなるように尽力することですね。

andrew:
2015年ぐらいからDJとして名が売れ始めてしまって、昨年も同じことを思っていたんですが、今年こそはレーベルから楽曲をリリースしたいです。

Carpainter:
2013年にマルチネレコーズからEPをリリースして、2014年からはガラージ系のアーティストとして認知されるようになったんですが、ひとつの音楽ジャンルの住人になるのは嫌なんです。ジャンルに縛られずに"Carpainterの楽曲"をみんなに認めてもらって、心の赴くままに楽曲をつくっていきたい。ジャンルを統一することよって楽曲に一貫性があると思われるのではなく、Carpainterっぽさで評価されたいですね。

Seimei:
去年はやれる範囲以上のことを達成できたと思うので、2016年はその勢いを利用し、次のビッグウェーブに向けて自分のやるべきことを継続していくことが目標です。

前後編を通じて感じたのは「良い音楽をより多くの人に届けたい」という熱い思いだ。無料で音楽を配信するネットレーベルならではのブランド戦略や、国内外のツアーの実施、アメリカのサンフランシスコに在住するメンバー・Seimeiと日本チームの連携によって、その目標に一歩ずつ近づこうとしているように感じられた。

テクノロジーによって音楽カルチャーが進化し、ネットレーベルが誕生してから約10年が経つ。TREKKIE TRAXはその中では若手であるものの、破竹の勢いで成長し続けている。音楽は国境を越えるのか。世界を狙う渋谷発のインディペンデント音楽レーベルの更なる躍進が楽しみだ。

【前編はこちら】渋谷で生まれたネットレーベルが全国・海外に進出、SXSW出演に至るまで--「TREKKIE TRAX」流のブランディング論

取材・文:岡田弘太郎

1994年生まれ。『SENSORS』や『greenz.jp』で執筆の他、複数の媒体で編集に携わる。慶應義塾大学在籍中で、大学ではデザイン思考を専攻。高校時代にDJをはじめ、「U20」への出演や「Sabaco Teenage Riot」の主宰を通じて、結成前のTREKKIE TRAXメンバーと知り合う。
写真:永田 大祐

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