日銀の中曽宏副総裁は21日、スウェーデンのストックホルムでスウェーデン王立工学アカデミーと日本学術振興が共催するセミナーで講演し「長引くデフレの下で人々の予想物価上昇率が低下し、それと同時に潜在成長率も低下したことが金融政策の有効性に対する制約になったことは否めない」との認識を示した。その上で1月に導入したマイナス金利付き量的・質的金融緩和は「デフレマインドの払拭と資本形成の促進を通じて、潜在成長率の引き上げにも資する」と述べた。
講演の邦訳を日銀が22日に公表した。「金融安定に向けた新たな課題と政策フロンティア」と題した講演で、中曽副総裁は日本のバブル経済崩壊後の「失われた20年」について、「金融セクターで起こっていたことのシステミックな性質を過小評価し、十分な対応を行わなかったことで、本格的な金融危機につながった点は否めない」と振り返った。
そのうえで「金融システムの安定は経済の持続的成長の基盤であり、潜在成長率の変化は金融循環の振れ幅を増幅し金融システムの安定性に影響するということを学んだ」と指摘。金融システム全体の潜在的なリスクに対応する「マクロプルーデンス政策」の重要性を「我が国の金融危機以降の経験が示唆している」との認識を示した。
マイナス金利付き量的・質的金融緩和は潜在成長率の低下とともに自然利子率(景気刺激でも引き締めでもない均衡実質利子率)が大きく低下したことに対応し、「実質金利をさらに押し下げることを狙いとしている」と説明。「マクロプルーデンスの観点からは、金融安定面への影響を注視していく必要がある」と指摘した。
現時点では「全体として金融面の『過熱方向のリスク』に大きな懸念はない」と述べると同時に、経済情勢の改善で信用コストが低下していることもあって「『収縮方向のリスク』も小さい」との考えを示した。将来的な金融不均衡の拡大に対しては「税制を含む財政政策や金融政策で対応する余地を排除すべきではない」との持論を展開した。
マクロプルーデンス政策は「規制強化に焦点が当たってきた」ものの、「銀行の低収益性という構造的問題の解決に寄与するものではない」と指摘。「構造的な問題は中央銀行だけの努力で解決できるものでは無い」と述べ、「政府の経済政策とともに企業と金融機関のイノベーションに向けた取り組みが必要不可欠」と締めくくった。〔日経QUICKニュース(NQN)〕