マッピングでわかった爆発的な拡がり
――私たち人類の直接の祖先である「ホモ・サピエンス」はいったいどのようにして日本にやってきたのか。この点について、人類学者である海部さんが信頼の置けるデータをもとに自説を展開したのが本書です。
そもそも数十年前まで、ホモ・サピエンスは世界各地でそれぞれが独自に進化したと考えられていました。しかし近年では、彼らがアフリカで生まれ、そこから各地に移住していったという「アフリカ起源説」が定説となっています。
そこで当然疑問となるのは、彼らがどういうルートで世界に拡散したのか、そして、どのようにして日本列島に入ってきたのかということ。
これまで、ユーラシア大陸への拡散については、「海岸移住説」が主流でした。中東やインドなどの海岸を伝った「第一波」の移住があり、その後しばらく経ってから「第二波」でアジア各地へと人々が移り住んでいったというものです。
ですが、10年ほど前から、新たに出てきた様々な研究を参照しているうちに、この説への疑問がわいてきた。そこで世界中の様々な学者と協力しながら、ホモ・サピエンスの初期の遺跡を年代とともにマッピングしてみると、彼らが海岸や内陸を問わず、一度に、爆発的にユーラシア全体に広がったというストーリーを描けるような地図ができあがりました。
――本書では、この爆発的な移住に関連して、ホモ・サピエンスの「創造性」に焦点をあてています。
爆発的な移住の背景には、彼らの「豊かな創造性」に裏づけられた「自信」と「チャレンジ精神」があったと、私は思っています。
ヨーロッパを見ると、ホモ・サピエンスである「クロマニョン人」は、「ラスコーの壁画」(フランス)など、動物壁画を描き、素晴らしい創造性を発揮しています。こうした力が移住の際にも生きていたはずだと思うのです。
また、クロマニョン人の遺跡などと比べると、僕らの「アジアの祖先」は何も残していないと思われがちです。しかし、この爆発的な移住を念頭にアジアを見ると、文明的な行動の痕跡が見つけられるんです。
たとえば、スリランカの約3万7000年前の遺跡からは、ビーズなどの装飾具が見つかっています。彼らは、クロマニョン人に近い創造性を、別の形で発揮していたように見える。ほかにも、彼らはアジアの熱帯雨林でサルを獲っていたと考えられますが、この時、弓矢や吹き矢を使っていた可能性すらあります。
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