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<健康>通勤中のおなかゴロゴロはストレス性疾患

毎日新聞 3月19日(土)10時30分配信

 満員の通勤電車の中で急におなかがゴロゴロしてきて、停車した駅でトイレに駆け込む……。こんな経験を何度もしている人は、ストレスで脳がダメージを受けているのかもしれません。これはどんな病気で、どう治すのでしょうか。尾高内科・胃腸クリニック院長、尾高健夫さんに聞きました。【医療ライター・竹本和代】

 ◇患者数1200万人! 過敏性腸症候群

 ストレスによって腸の調子が悪くなるのは「過敏性腸症候群(IBS)」という病気です。検査をしても異常が見つからないのに、腹痛や腹部膨満感、腹鳴(おなかがゴロゴロすること)などの症状、下痢・便秘といった便通異常が慢性的に起こります。推定患者数は1200万人で、比較的若い世代に多くみられます。「便秘型」「下痢型」「混合型」「分類不能型」の4タイプに分けられ、ほとんどは便秘型か下痢型です。患者数の男女差はないのですが、便秘型は女性、下痢型は男性に多くなっています。

 IBSは、脳に大本の原因があるストレス性疾患です。神経伝達物質のセロトニンは「脳内物質」ともいわれますが、97~98%は消化管の中にあります。腸のセロトニンは、ストレスがかかると働きが活発になり、内臓の知覚過敏と消化管の運動異常を引き起こします。知覚過敏からは腹痛や腹部膨満感などの不快感、運動異常からは便秘や下痢といった便通異常が起こってくるのです。さらに、こうした症状そのものがストレスとなって脳にダメージを与えます。

 IBSのおおもとの原因は、ストレスによって脳が過度の負荷を受けることにあります。ですから、ストレスを緩和する抗不安薬や、抗うつ薬を使うことが理にかなっていると考えられます。しかし、日本人はこうした薬に心理的抵抗を持つ人が少なくありません。そこで一般に、まずおなかの症状を改善することに力を注ぎます。おなかの調子がよくなれば、影響は脳にも及ぶと考えられます。

 ◇便秘型~試行錯誤で合う薬を探す

 便秘型に夜1回飲むタイプの刺激性下剤は不向きです。飲むとおなかが痛くなりますし、腸が過収縮を起こすため便が出てもひどい下痢だったりします。

 医師が治療に用いるのは、腸のぜん動運動を正常にする薬です。便が硬く、おなかが張って痛い人には、便軟化剤も使います。おなかの差し込みが強い人には、腸の動きを抑える抗コリン薬が効くことがあります。さらに、消化管運動改善薬も用います。これらの薬を組み合わせ、効果を見ながら薬を変えて治療していきます。合う薬が見つかるまでは試行錯誤の連続なので時間がかかります。

 治療の効果が不十分な場合は、第2段階として脳に働きかけます。まず、抗不安薬を追加し、それでもだめなら抗うつ薬を処方するのが一般的です。しかし、ほとんどの方は、その前にある程度の効果が見らます。

 ◇下痢型~腸を“鈍感”にする薬が効果的

 下痢型に現在、最も用いられているのは、セロトニン5-HT3受容体拮抗(きっこう)薬です。この薬は、前述のセロトニンが過剰に働かないようにして腸の異常を抑える薬です。いい意味で腸を鈍感にするのです。治療で効果が不十分な場合は、便秘型と同様に脳に働きかける治療をします。

 ◇混合型と分類不能型~下痢止めや下剤はご法度

 混合型と分類不能型には残念ながら、ベストといえる治療法はありません。両者とも、治療が非常に難しいタイプです。明らかに言えるのは、下痢止めや下剤は絶対によくないということ。下痢のときに下痢止めを飲むと簡単に便秘になり、便秘のときに下剤を飲むとすぐ下痢をします。ですから、おおもとである脳に働きかける治療をするのが最もよいのかもしれません。

最終更新:3月19日(土)10時30分

毎日新聞

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