【ブリュッセル=森本学】欧州連合(EU)の加盟28カ国が18日のトルコとの首脳会談で難民・移民の流入阻止のための新枠組みに合意したことで、EU側には増え続ける流入に一定の歯止めがかかるとの期待が高まる。新合意は新たにギリシャへ密航する難民や移民をトルコへ送り返す一方、EUはトルコ内で避難生活を送るシリア難民を受け入れて域内に定住させる「難民交換」が柱。ただ約束通りに実行できるかは課題も多い。
EU・トルコの合意では20日以降にトルコからギリシャへ渡った密航者は原則としていったんトルコへ送り返す。送還費用はEUが負担する。
多数の難民らを送還することに、国連機関などからは「国際法に反する」と批判の声が上がっていたが、密航業者のビジネスモデルをつぶす「一時的な特別措置」だと強調し、理解を求める。難民保護の懸念に配慮し、ギリシャに渡った難民や移民らの事情を個別に審査する。
トルコは難民として保護する対象を「欧州からの難民」に限定している。シリア難民には特例を与え一定の保護をしているものの、その他の中東やアフリカからの難民の保護義務はなく、国連機関などが懸念を示す要因となっている。EUは「国際基準」に従った難民の扱いの見直しを要請しトルコ側も約束した。
難民や移民をトルコへ送り返す見返りに、EUはトルコが求めていたトルコ国内のシリア難民支援のための資金支援の拡大や、EUへ渡航するトルコ国民のビザ免除時期の前倒し、EU加盟交渉の加速などに応じる。
EU加盟交渉の加速を巡って焦点となっていたのが、トルコとEU加盟国キプロスの対立だ。トルコによる軍事介入の結果、1974年に親トルコの北キプロスが独立を宣言し、国家分断の状態が続く。
トルコはキプロスを国家として承認していないため、キプロスもトルコのEU加盟に反対してきた。アナスタシアディス大統領は「トルコがキプロスを(国家と)承認しない限り、同意しない」と強硬姿勢をみせていた。合意案ではキプロスが反対しない交渉分野(予算)に限って新たな協議を6月末までに始めることで折り合いをつけた。
トルコ国民がEUに渡航する際の査証(ビザ)免除措置の導入時期を6月末までに前倒しするようトルコが求めていた点については、トルコ側が基準を早急に満たすよう努めることを確認する。EUとして条件緩和などはしない姿勢だ。
EUとトルコが正式合意にこぎ着けても、具体的な実行には課題が多い。「難民交換」ではトルコ国内の施設に避難しているシリア難民の受け入れ分担などを巡って、EU内で利害が対立する恐れがある。
EUは昨年、ギリシャとイタリアに到着した難民16万人を加盟国で分担して受け入れることで合意した。しかし実際に受け入れたのは今月15日時点で937人にとどまる。人道的見地からEU全体での受け入れ分担を呼び掛けるドイツに対し、経済的余力に乏しい中・東欧諸国が反発する構図は変わっていない。
トルコ―ギリシャ間の不法移民への取り締まりを強化しても、新たなルートへ移転するだけだとの見方も根強い。EUとトルコは新たな密航ルートを防止するために「あらゆる必要な措置をとる」ことで一致する方向だが、具体的な手立ては不透明だ。