木皿泉さん著「昨夜のカレー、明日のパン」
最近文庫化されて、電子書籍もある。
ドラマ化もされたし、マンガ化もされている。
内容(「BOOK」データベースより)
7年前、25歳で死んでしまった一樹。遺された嫁・テツコと今も一緒に暮らす一樹の父・ギフが、テツコの恋人・岩井さんや一樹の幼馴染みなど、周囲の人物と関わりながらゆるゆるとその死を受け入れていく感動作。本屋大賞第二位&山本周五郎賞にもノミネートされた、人気夫婦脚本家による初の小説。
穏やかな心持ちになれる8つの連作短編集。
登場人物や時間は8話全てつながってるんだけど、ストーリーは1話ずつ独立してる形式。
純文学と違って風景描写が少なく、持ってまわった表現もないのでスルスル読める。
だけど純文学の匂いがゼロかというとそうでもない。ちょっと香る感じ。
登場人物がそれぞれ少しずつ"抜けている"設定で、かつ全員善意の人なので、読んでるうちにすごく愛着がわく。
この作品のテーマの一つとして"居場所としての家"があると感じた。
全編を通して古い家とそこにとどまりたい人間模様が描かれてる。
テツコが、なぜこの家に居続けているのか、ようやくわかった気がした。そして、ギフがあんなに頭を抱えて困っていたのは、この生活を失いたくないからなんだ、ということもわかった。
対比としてマンションやアパートのような部屋をこんな風に描いている。
ここはただ眠ったり食べたりする場所だということが、いやおうなく思い知らされる。仕事をすることをベースにした、そのために合理的につくられた空間なのだと、岩井は思った。そうなのだ、ここには暮らしというものが一切ないのだ。
一部抜粋だと、「マンションより一軒家のほうがいい」という物理的な話になっちゃうけど、実際に描かれているのは"心持ち"としての居場所だ。作品全体でそれが表現されている。
もちろん何もかも変わらないなんて都合のいい話はない。
そして、ギフは自分もそうだと言った。年を取ってテツコさんに面倒を見てもらうのもイヤなのだ。ずっと変わりなく、このままでやってゆきたいのに、二人とも中途半端な関係のまま、いやがおうでも年を取ってゆく。それを認めたくなくて、まだ自分は若いと思いたくて、あるいはテツコさんとの生活から、これでうまくフェイドアウトしてゆけると思いたくて…
いやがおうでも変わっていく環境と、なかなか変われない(というか変わりたくない)人間。でも変わらないといけない。
はっきり書いているわけじゃないけど、この作品は"変わる"ことに対してそっと背中を押してくれてる気がした。
読んでいる最中も読みおわった後も心地よくさせてくれる素敵な作品だ。
↓マンガもある
↓ドラマのDVDもある(Amazonレビューべた褒め)
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とりあえず…
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