日景忠男をしのんで:ロマン優光連載52
ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第52回 日景忠男をしのんで
日景忠男氏がひっそりと亡くなっていた。日景氏といえば自殺した俳優・沖雅也氏の養父であることで知られ、自殺時のマスコミ取材でのエキセントリックな言動や、後にステレオタイプな「滑稽なオカマ」の役割を演じながらテレビのバラエティーに頻繁に出演していた時の姿が印象に残ってる人が多いだろう。日景氏と沖氏は実質「恋人」関係で、ボーイと客として知り合い、事務所の社長としてというかパトロンとして、沖氏の芸能活動を支えていた人物というのがわかりやすいかもしれない。(ちなみに、沖氏以前の日景氏のお気に入りがピンク映画で活躍したポルノの帝王・久保新二氏であることを久保氏が自身のブログで記している。)
日景氏によると沖氏は「ノンケ」、要するにゲイではなかったという。実際、女性が好きで今で言うデリヘルを好んでいたらしい。そういう情報もあって、日景氏を「金で無垢な美青年を支配した卑しい変態」とみなす人も多かった。
過去に読んだ日景氏のインタビューで印象に残ってるのが「男性が好きな人だったら絶対わたしのところにこないと思う。女性が好きな人じゃないと自分には来ない。」という意味の言葉だった。日景氏はメンタル的には自分を女性だと認識していたのだろうことが伺える。いわゆるニューハーフを好む男性の多くは男性を性的対象・恋愛対象にしてるわけではないだろう。女性の形態、女性の特質を相手に求めているのだから。日景氏が女性として振る舞うからこそ、本質的にもヘテロの沖氏も日景氏と長い関係を保つことができたのではないかということが想像される。沖氏を女性として扱ったり、男性としての日景氏を愛することを要求されていたら、長い間関係性を保つのは難しかったのではないだろうか。
日景忠男の美しい思い出は幻想か
後年、日景氏が沖氏との関係を振り返って語った言葉はどれもキラキラとして至福に溢れている。本当に素敵で美しい恋の思い出ばかり。それを読んだ時に、自分はヲタクのアイドルとの接触レポートを思い出す時がある。その素敵で美しい思い出は本当のことなのだろうか? 脳内でバイアスがかかって見せた勝手な幻想なのではないだろうか? 外野には、そう揶揄されるたぐいのものでしかないのだろう。一方の側だけが勝手に語ってるだけのものにすぎないからだ。しかし、それが幻想で真実ではないと言うこともできない。一方の側からしか語られてないということは、相手から否定されてはいないということでもあるからだ。客観的に第三者が見て「あからさまに嫌がっていたのに気づいてない」「あからさまに馬鹿にされているのに気づいてない」ということもあるだろう。そういう露骨な事態や相手からの発言がない以上、それは幻想なのか真実なのかは証明されることはない。男と女の関係の中でだって言える。容姿が劣ると見なされてる金持ちの年配の女性と付き合ってる若い美青年がいるならば、屈辱的に飼われている、あるいは打算的に利用していると思われがちだ。
しかし、そこに我々が窺い知ることのできない二人だけの情実があることだってあるだろう。人が人をどういう理由で好きになるかなんて、誰にも、ひょっとしたら本人ですらもわからないのだから。日景氏と沖氏の関係なんて二人にしかわからない。いや、結局のところ相手の自分に対する思いなんて本当にわかってるかどうかなんてわからないのだから、一人、一人が自分の真実しかわからないものだろう。色んな人がいる。色んな関係性がある。その中の好きの気持ちなんて、所詮は個人的な妄想なのかもしれない。日景氏は後年逮捕されたり、海外で買春をしたり、けして誉められるような綺麗な人物ではないのだけど、沖氏に対する思い、二人で過ごした時間への思いだけは、間違いなく美しいものだった。それだけはきっと日景氏の真実なのだろう。そう、それは確かに綺麗なものだった。
<隔週金曜連載>
写真:「真相・沖雅也」日景忠男・著 1984年ワニブックス刊(現在入手困難)
【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。少女閣下のインターナショナルの里咲りさに夢中らしい。
おすすめ書籍:「日本人の99.9%はバカ」/ロマン優光(コア新書)
http://books.rakuten.co.jp/rb/13104590/
おすすめCD:『蠅の王、ソドムの市、その他全て』/PUNKUBOI(Less Than TV)
http://books.rakuten.co.jp/rb/13292302/
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