ごんぎつねのことを思い出すと、心が痛む。
いっぱい絵本は読んだのに、心に残る作品には少しの理不尽さと憤り、そして死がある。
それは戦時中のゾウの処分を描いた作品「かわいそうなぞう」でも同じである。
物語はいつだって、すっきり爽快だけではない。それは気持ちは良いけど、その瞬間、通り過ぎるだけで何も残らない。
実は文章も一緒で、本当に上手い人はわざと「悪文を混ぜる」という。そうすると、いままですんなり読めていた文章が、「ん?どういうこと」となってテンポを落とす箇所が出てくる。そうすることで何かが残る文章になるのだという。
ちなみに僕はそんなテクが無いから、まずはスッとスッと読めるものを心がけている。
村上春樹訳の「大きな木」は良い物語なのか?
いま絵本業界で話題になっている本に「おおきな木」という作品がある。なにが話題なのか、それは「これは良い話なのか、ひどい話なのか」という論争が日本で起きているからである。
この作品は、1964年にアメリカのシンガーソングライターであり、作家でもある、シェル・シルヴァンスタインによって描かれ、日本でも1976年に出版されている。
登場するのはリンゴの木と少年。
いつも木と話す少年。枝にブランコを付けて、ずっと仲良しだったが、やがて少年は女の子に夢中になり、木とは遊んでくれなくなる。
それでも木は少年を待ち続けていた。
久しぶりに少年が来たと思ったら、お金が必要だ、家を建てる木が必要だ、と言いだす。そのたびにリンゴの木は実をあげたり、木を切ってあげたりする。さらに「遠くに行きたい」と言いだした時には、自分を切って船にしてあげている。
しまいには切り株だけになったリンゴの木。そこにやってきたのは、年老いた少年だった。「疲れた」という少年に「私に座りなさい」とリンゴの木は声をかける。切り株に腰かけた姿を見て、果たしてリンゴの木は幸せだったのか・・・。
もうまさに親と子の関係のようだ。与え続ける親、受け取り続ける息子。
最後の最後に村上春樹が投げかけた言葉がいつまでも心に残る。そして、ここだけが前の人の翻訳と明確に違うところだという。
子ども向けだけど親に読んで欲しい一冊
僕はこの本を読んでいて、後半泣きそうになってしまった。
木と自分を重ねたからだと思う。子どもが生まれた時、「自分より大切な存在がいる」と初めて知った。本を読んでいるとその時の気持ちが蘇ったのだ。
その一方で、無条件に甘え続ける少年にもイライラした。でも、理不尽だからこそ、心に残る作品だといえる。
この本が売れている理由は、きっと親がぐっと来る作品だからだと思う。
手元に持っていて何度も読み返したい一冊だ。
- 作者: シェル・シルヴァスタイン,Shel Silverstein,村上春樹
- 出版社/メーカー: あすなろ書房
- 発売日: 2010/09/02
- メディア: ハードカバー
- 購入: 11人 クリック: 84回
- この商品を含むブログ (53件) を見る