東京電力福島第1原子力発電所の事故後、福島県から京都市に自主避難した元会社経営者の男性ら一家5人が「事故の影響で精神疾患になり、仕事も失った」などとして、東電に計約1億8千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が18日、京都地裁であった。三木昌之裁判長は事故との因果関係を認め、男性と妻に計約3千万円を支払うよう東電に命じた。
原発事故の自主避難者に対する東電の賠償責任が認められたのは初めてとみられる。認容額は原子力損害賠償紛争解決センターの裁判外紛争解決手続き(ADR)で和解額として提示された約1100万円を上回った。
原告側は「ADRでの提示額に納得いかなくとも諦める必要はないと判決が先鞭(せんべん)をつけた」と評価した。東電は「判決内容を精査し、引き続き真摯に対応する」としている。
判決によると、2011年3月の原発事故を受け、男性らは健康被害などを懸念して福島県から京都市に自主避難した。経営していた会社は、従業員も自主避難するなどしたために事業継続が困難になり、男性は不眠症やうつ病になった。
三木裁判長は判決理由で「男性は住み慣れた福島から地縁のない土地への転居を余儀なくされ、強いストレスを受けた」と指摘し、不眠症やうつ病は「事故が主な原因の一つ」と認定した。
そのうえで、男性は不眠症と診断された11年5月時点で就労不能な状態にあったとして、東電は休業による損害や慰謝料を支払うべきだとした。避難前に住んでいた地域の放射線量などを基に、自主避難を続ける合理性があった時期は12年8月末までとし、以降の分の請求は退けた。
妻についても、男性の通院への付き添いなどで再就労が難しく、精神的苦痛を被ったとして東電の賠償責任を認めた。子供3人には東電がすでに支払った金額以上の慰謝料は認めなかった。
福島第1原発事故の避難者が国や東電に損害賠償を求める訴訟は各地で起こされており、今年2月には全国15地裁・地裁支部で係争中の原告団が全国連絡会を結成した。
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