「楽観主義者と悲観主義者はともに社会に…
毎日新聞
「楽観主義者と悲観主義者はともに社会に貢献している。楽観主義者は飛行機を発明し、悲観主義者はパラシュートを作った」。劇作家のバーナード・ショーはいう。市場も同じく強気のブル(雄牛)と弱気のベア(熊)が相場を形成する▲日銀のマイナス金利導入決定後の為替や株式、債券市場が大揺れである。10年物国債の利回りがマイナスとなったのは政策の帰結とも受け取れるが、急激な円高と株価低落は想定外というしかないだろう。市場を制圧したのは世界経済の先行きへの弱気のベアだった▲原油安や新興国経済の失速への懸念に加え、欧州の金融機関の信用不安も浮上して動揺する世界の金融市場である。言い知れぬ不安が広がる中、リスクの回避を求める投資家らはパラシュートに殺到した。それが比較的安全とみられる円や日本国債だったわけである▲投資や消費をうながすはずだった日銀のマイナス金利政策も、不安と疑心暗鬼(ぎしんあんき)のもたらす円高、株安にのみこまれた形である。こうなってみれば銀行株の急落や預金金利の低下をもたらしたマイナス金利に「不安を増幅した」とのうらみ言が出るのも成り行きだろう▲「楽観主義者はドーナツを見る。悲観主義者は穴を見る」は作家のオスカー・ワイルドの言葉である。2%の物価上昇目標実現への日銀の強い意志を示すとされたマイナス金利導入だったが、見ていたものが市場の参加者と日銀とではまったく違っていたようである▲猛獣使いよろしくブルやベアの心理をサプライズ効果で操ってきた金融政策への市場のしっぺ返しだった。返された危険信号は正確に受け止めてほしい。