大切なものは強く掴んでいないとすり抜けていく。
恋愛が教えてくれた数少ないことのひとつだ。
しかし、それに気付いた時、大切なものは、
既に僕の手をすり抜けた後だった。
今の僕にとって大切なもの。
それはマグカップ代わりに使っている
サーモスというメーカーのフードコンテナだ。
眠気覚ましのブラックコーヒーを入れて飲む。
そんなフードコンテナの蓋についてる
パッキンが昨日から行方不明になっていた。
大切なものはいつも僕から離れていく。
女は裏切るけどパッキンは裏切らない。
そう強く信じたのに!何で?!
俺じゃダメなの!?
俺、パッキンに相応しい男になるよ。
それまで待っていてくれないか。
◆◇◆◇◆
パッキンは他人のマグカップの下にありました。
あー、まじ見つかって良かったわ。
もしパッキンが見つからなかったら、
今日も仕事が手につかないとこだったわー。
安心したところで、明日行く高級サウナへ
前日確認の予約電話を入れた。
「明日の18時30分の回でお願いしております宮崎と申しますが。」
「宮崎様・・・しょ、少々お待ちいただけますか。」
電話越しにボーイさんが
焦っているのが伝わってきた。
こりゃ、予約取れてねーな。
一難(パッキンが無くなる)去ってまた一難。
まったく。人生ってヤツに舗装路は無いのだろうか。
パッキンも無くさない、風俗の予約ミスもない、
そんな平坦でつまらない人生で僕は満足なのに。
◆◇◆◇◆
「大変申し訳ございません・・・」
僕の予想は的中した。
明日の予約は取れていなかった。
しかし、今日の天気予報は雨のち雪。
多少のキャンセルが出ることを考えて、
すぐにキャンセル待ちのお願いをした。
雪よ降れ!雪よ!
パッキンのことが済んだら、
今度は風俗のキャンセル待ちのことで
頭がいっぱいになり仕事が手に付かない。
恐らく、スキー場関係者の次くらいに
雪のことを考えていると思う。
この思い、何か知らんけど、どっかに届け。