日産自動車は全社員を対象に在宅勤務ができる制度を導入している。介護をする男性社員の手助けになるうえ、女性社員には育児・家事の融通が利き生活にメリハリがつくと評判だ。
「午前中はフルに仕事をしてから、午後に子どもの学校行事に参加できた」「通勤時間の分を家事に費やせるので気分的に楽になった」。日産の在宅勤務の活用例を紹介するサイトは使い方のノウハウを共有し、自分も使ってみようと考えるのに一役買っている。
チャット・音声テレビ会議システムをフル活用し、目的にかかわらず在宅勤務を使えるため、利用率が上がった。社員は前日までに在宅勤務の開始・終了時間や外出予定、業務内容をメールで上司に報告する。
当日は勤務の開始・終了のメールを送る。上司や同僚のパソコンの画面には家で勤務する社員のリアルタイムの顔を映し、本人は仕事の状況ごとに「連絡可能」「取り込み中」「応答不可」「一時退席中」と表示を切り替える。姿をある程度把握できるため「顔の見えない不安」を解消できる。
2006年の当初は育児・介護による利用に限るうえ1カ月前の申請が必要で、使いにくかった。だが10年に生産工程以外の全社員へ対象を広げ、育児・介護枠と別に目的を問わず取れることに。14年から利用の上限を月5日(40時間)に拡大し、前日申請が可能になった。15年からは40時間以内なら日数制限はない。
利用者の調査では「計97%が生産性が『向上した』『変わらない』と回答した」と担当者。育児による在宅勤務利用者は男女合わせて年間約280人で改正前の3倍に増えた。全体の利用者は3427人(管理職含む)まで広がっている。
■和田優子さん、子供のスポーツチーム指導
輸出業務部の和田優子さん(48)は毎週水曜日を在宅勤務の日と決めている。
小学5年生の次男が通う学校は4時間授業で、帰宅が早いからだ。8時間の在宅勤務を終えると、早めに食事の支度をして地元の小学校体育館へ向かう。夜7時半から次男の通う小学校の体育館では柔らかい円盤遊具を使ったドッジボール「ドッヂビー」のチームの指導にあたる。
和田さんは次男も参加する13人のチームを年2回の大会で勝てるよう、活を入れる日々が続いている。
自宅での仕事は、午前8時半から契約書類の確認などに取りかかる。「誰にも邪魔されず、我を忘れて没頭できる」ため、細かい数字の多い書類の確認がはかどる。時には昼食の時間を忘れてしまうほどだ。
通勤時間節約、仕事効率アップ
和田さんが在宅勤務制度を使うようになったのは2009年。日産本社が東京・銀座から横浜に移転した直後からだった。
移転前は次男の保育園の迎えに急いで退社すれば間に合ったが、横浜への通勤時間は片道1時間余り。育児もままならなくなった。
「在宅勤務は子育てがきっかけだったが、後回しにしていた1週間分の仕事に一気に対応できるのが利点」。次男が小学校を卒業し、子育てが一段落しても、在宅勤務を続けるつもりだ。
■林奈帆子さん、海外と自宅で会議
SCM本部部品物流エンジニアリング部の林奈帆子さん(33)は新車の最適な物流コストの提案が主な仕事だ。例えば4年後に欧州の工場で小型車を生産するとき、どの地域から部品を調達して生産し、完成した車の物流網をどう築くのか、世界規模で考える。部品の物流から車両生産、運搬までをコーディネートするのだ。
仕事相手の物流担当者は世界各地の工場に散らばっており、時差の関係から早朝や夜9時以降に始まる会議が多い。林さんはそんな時に在宅勤務制度を使う。月に10時間ほどだ。「普段から海外の調達担当者らとの電話会議が仕事の中心。自宅で仕事は進めやすい」
メキシコの現地法人との会議は午前7時半から始まる。チャットで相手に「おはよう」とあいさつしてから、午前9時まで相手の仕事の進捗を確認して、出社するのは午前11時ごろだ。
居残りをカット、心身にプラス
夜9時から自宅で電話会議を始めることもある。ルノーの物流担当者とのやりとりや、上司への報告が主な内容だ。その時は夕方5時に帰宅して夕食などプライベートな時間を過ごしてから、仕事を再開する。
「夜9時の会議のためだけに居残るのはムダ。ダラダラ居残るよりも、心身が満たされた状態で取り組む方が質は高まる」と語る。
■対象拡大、不公平感なくす
日本テレワーク協会の今泉千明主席研究員の話 在宅勤務制度は情報技術を活用し場所や時間にとらわれず柔軟に働ける。国土交通省の調査では週8時間以上オフィスを離れて仕事する労働者は就業人口の16.4%、1070万人いる。全体としてここ数年横ばいが続くが、政府は2020年までにテレワークの導入企業を12年度の3倍に増やす目標を立てている。
管理職は部下が目の前からいなくなることに抵抗感があるだろう。ただ、テレビや電話による遠隔会議システムは進化しており、相手の顔が見えない不安は解消されつつある。また管理職本人が在宅勤務を実践することで制度への理解は進むはずだ。制度を浸透させるためには、日産自動車のように多くの社員を対象にすることが必要だ。対象者を育児・介護をしている人だけに限定すると、社員間で不公平感が生じる恐れがある。
(青木茂晴)
日産自動車、CASE
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