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ふにやんま ー 世界の小所低所からー

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『フードトラップ』 食品に仕掛けられた至福の罠

読書

『フードトラップ』 食品に仕掛けられた至福の罠 (2014)

フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠

フードトラップ 食品に仕掛けられた至福の罠

 

廃棄冷凍カツ横流しとか、食品関連の事件というのはココ最近、絶えずありますねというのはさて置き本書です。新しい本でなくてすいません。

500頁を超える厚さと翻訳本ということで一瞬ひるみますが、決して読みにくい本ではないのでご安心を。

表紙にも「SALT、SUGAR、FAT」とあるように、塩分・糖分・脂肪分の摂取を人間の脳がいかに「快楽」として甘受しやすく出来ているか。早い話「余分3兄弟」(古いかな)がいかに我々をメロメロにするかという内容。

そして加工食品メーカーがいかにそれを戦略的に利用しているかを探求した本です。

 

 

【プロローグ】から

加工食品メーカーが利用してきた塩・砂糖・脂肪は、彼らの手中においては栄養素より兵器に近い。

競争相手を負かすためだけでなく、消費者にもっと買わせるためにも利用される兵器である。 

加工食品に欠かせない3本柱、「食べたい」という欲求の源となる成分だ。塩、脂肪、砂糖。商品をヒットさせるため大量に使われるこの3つの成分は、肥満の急増をもたらした主役でもあった。

塩は、最初のひと口で味蕾に生じる刺激感を増大させるため、さまざまに加工した形で食品に使われる。

脂肪は、カロリーが極めて高いうえ、われわれの食べる量がつい多くなるという微妙な作用を持つ。

そして、砂糖。脳の興奮作用を持つこの成分こそ、おそらく最も恐るべき存在だろう。加工食品の売り上げを支配する成分である。

   

【第1部:糖分】から

実際には、口蓋と呼ばれる口の天井も含めて、口の中全体が糖分に対して狂乱のような反応を示す。

口内には約1万個の味蕾があり、その一つひとつに甘さを感じる特別な受容体があって、それらはすべて何らかの形で脳内の快楽領域につながっている。

われわれは、体にエネルギーを供給すると快楽という報酬が得られるわけだ。

だが、話はそこで終わらない。最近では、食道から胃、そして膵臓でも糖に反応する味覚受容体が発見されている。これらは食欲と複雑に関係しているらしい。  

「甘い食品」=「生存に有利なもの」

このDNA上の設計図が書き換えられない限り、我々は糖分の刺激に対して「もっと食べろ!もっと食べろ!」「おかわり下さい!」というテレビ東京的な反応から逃れられない訳ですね。怖いよう。 

 

【第2部:脂肪分】から

脂肪分には、加工食品にとって糖以上に重要な最後の特徴がある。

脂肪分は、糖分のようにはわれわれの口を爆撃しない。脂肪分の魅力はもっとひそやかなところにある。

脂肪分のふるまいについて科学者たちに話を聞いていて、私は麻薬を引き合いに出さずにはいられなかった。加工食品における糖分が、素早く強力な作用を持つ覚醒剤メタンフェタミンだとすれば、脂肪分はアヘン剤だ。

あまり目立たず、さりげなく作用するが、麻薬としての威力は覚醒剤に劣らない。 

脂肪は糖の2倍という大量のエネルギーを含んでいる。

食物中の脂肪分が多いほど、体は体脂肪として多くのエネルギーを蓄え、将来の栄養不足に備えることができる。

だから脳は脂肪分を大親友だと思っている。

われわれの脳は、十分食べたときに信号を出して過食を防いでいるのだが、脂肪分の場合はこのメカニズムの起動が遅い。

脂肪分は糖分と一緒になるとさらに強力になる。このコンビに出会うと、脳は脂肪分の存在をほとんど検知できなくなり、過食を防ぐブレーキがオフになってしまう。

甘いものは殆ど食べない左党(駄洒落じゃないです)の私ですが「脂肪×砂糖」のツープラトン攻撃の旗手ぐらいは分かります。いわゆるスイーツですよね。バター、生クリームにはこってり脂肪分が含まれているはず。

「ケーキ(甘いもの)は別腹よ」というのは生理学的根拠がちゃんとあったんだ!と得心しました。

「カレーに砂糖を入れると美味しくなる」「市販のカレールーには砂糖が必ず入っている」というのもここに繋がるのでしょうか?昨日がカレーだったので、台所にはハヤシライスのルーしかなかったのですが、今見たら原材料表示の上位に砂糖がありました。含有量の多い順に表記する規定の筈ですが、上から「食用油脂(牛脂、豚脂)、小麦粉、砂糖、食塩・・・」と続いています。

「カレーは飲み物」とか言ってる場合じゃないですね、こりゃ。

 

【第3部:塩分】

人間は食塩が大好きと言われても、日本人の食生活だとあまりピンときませんよね?

これは本書の大きな驚きの一つなので、このパートからの引用は控えておきます。

考えてみれば塩分も生存に不可欠な訳で、快楽スイッチが備え付けられていても不思議は無いなと。

 

 

著者紹介によると、マイケル・モス氏はニューヨーク・タイムズ記者。2010年に食肉汚染の報道なのでピュリッツアー賞を受賞。1999年と2006年にも同賞ファイナリストに。コロンビア大学大学院でジャーナリズム学准教授。

 

経歴紹介を長々としたのは、この本がいわゆる「疑似科学本」「トンデモ健康本」とは一線を画した、確かな出典と考察、取材に基づいた内容だと思われることを確認したい為です。私、食品の専門家でも何でもありませんので。

過激な「食品安全主義者」の主張とは違い、新聞記者らしく企業側の経済原理にも配慮した、バランスの取れた構成になっています。

センセーショナリズムに基づいた「売らんかな」の本とは位相が異なる一冊です。

 

近年の食品関連で印象に残っているのは、フィクションなら

ブラックボックス篠田節子(2013)

ブラックボックス

ブラックボックス

 

週刊朝日』連載の単行本化ということで、ご存知のかた多いかも知れません。

カット野菜の処理工場を舞台にした「食品汚染」の詳細もショッキングですが、もうひとつのメインストリームである、プラント野菜経営に対する大資本のえげつないやり口が圧巻です。こちらに重点を置いた脚本でドラマ化したら、相当いいものが出来ると思うのですが、スポンサーがまず付かないから無理でしょうね。

 

ノンフィクションならば、

『「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。』  

河岸宏和(2014)

「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。

「外食の裏側」を見抜くプロの全スキル、教えます。

 

旨みをケミカルに増すのに使われる「タンパク加水分解物」

原材料表示の義務はあるのですが、これ素性がかなり怪しいのに食品添加物扱いではないので、いくら使っても「無添加」と謳えるってご存じでした?

知らないうちに、なんかいろんなモノを口にしてるんだなあと逆に感心します。

成型肉とか、調べるとやはり気持ちがいいものではないですよー。

「いちいち細かいことを気にしていたら、何にも食べられないって」というのも否定はしませんが。

外食に興味があるかたには面白いかと。

 

「食の安全」本は、需要が見込めるカテゴリなのでかなり乱発気味。情報に踊らされないよう、読み手も注意が必要なのは言うまでもありません。

「ホンマかいな?」と思ったら、自分で調べて極力裏をとることが大事ですね。

ベストセラー買ってはいけない改訂の教訓もありますし。

以上 ふにやんま