香港「反共」書店
連続失踪事件で暗躍する中国当局
Photo:AFP=Jiji
香港の「銅鑼湾書店」の親会社株主や店長ら5人が相次ぎ失踪する謎の事件に、香港社会が危機感を強めている。
同書店は、中国の共産党独裁体制への批判や国家指導者の権力闘争をテーマにした書籍を発行・販売している。こうした「禁書」は中国本土からの旅行客に人気である。最近では習近平国家主席の女性問題に関する本を出版する計画があった。
失踪が始まったのは2015年10月。タイや広東省で4人が行方不明になり、12月30日、5人目となる株主の李波氏がついに香港から失踪した。李氏から妻に対し、広東省深セン(土へんに川)市からの発信で電話があり、李氏は「調査に協力する必要がある」と話した。
だが李氏が中国に出境した記録もなく、香港での法執行権がないはずの中国当局が介入したのは間違いない。
言うまでもなく香港では「1国2制度」に基づき言論、報道、出版の自由が認められている。1月10日に行われた抗議デモには約6000人(主催者発表)が参加した。
香港住民の李氏は英国パスポートを所有し、失踪者の中にはスウェーデン国籍保有者もいる。5日に訪中したハモンド英外相は王毅外相に李氏の行方を捜査するよう要求した。これに対して中国外務省は「香港は中国の特別行政区。中国内政への干渉に反対する」とした上で「外交問題ではない」と強調。当局による関与を肯定も否定もしていないが、中国内部の問題という姿勢を崩さない。
共産党の見解を代弁する党系紙の環球時報も「政治書籍販売は、内地(本土)の秩序維持を妨害するもので、内地による調査展開は中国の法律に合致」(6日付)としている。
習主席は、14年後半の香港の民主化要求デモを受け、「香港で海外反共勢力の影が見える」と警戒を強め、力によって香港の「反共世論」を抑え込んでいる。今回の事件も公安・宣伝当局が、言論弾圧を強める習主席の方針を踏襲し、習近平批判に対する「警告」にする狙いがあるとみられる。
「『2制度』より『1国』に重きを置く」習近平式の香港統治方式は、香港住民の不安を高め、国際社会の強い反発を招いた。「1国2制度」を守れるか、香港は今、大きな転換点を迎えている。