欧州で冬の寒さが厳しくなるにつれ、難民をめぐる政治の雰囲気も凍るような冷たさになっている。昨年中東やアフリカから欧州大陸に何十万人もの難民が押し寄せたとき、多くの国々の反応は寛大だった。
今では到着する難民に反感を抱く有権者も出てくる中、各国政府が厳しい対応に転じている。これまで難民を最も歓迎していたドイツは、罪を犯した難民を国外退去させる、より厳しい法案を可決した。スウェーデンは国境検査を導入することでその人道的アプローチを後退させつつある。だが、特に注目を集めているのは、デンマークの大胆かつ物議を醸す対策だ。
■17万円と思い出の品以外は没収
デンマークの中道右派政権は、難民の居住費に充てるため宝石や現金などの貴重品を引き渡すよう難民に求める新たな法案を検討している。この法案は、新たに到着した難民は最大1万デンマーククローネ(約17万円)と「思い出の品」は保持できるが、それ以外はすべて没収するというものだ。ラスムセン首相は、新たに来る人々は同国が持つ福祉制度の気前の良さを認識すべきであり、この動きは正しいと述べた。「デンマークでは、これらの恩恵を受ける前に、財産があるならまず自分で払うべきだ」とラスムセン氏は言う。
デンマーク政府がこのような政策を検討しても何ら驚くことではない。同国はかつて外国人に対する寛容さを誇りにしていたかもしれないが、最近は中道右派の少数与党政権が支持を反移民政党に頼っている。
ラスムセン氏は難民申請希望者に対して家族を同国に呼び寄せる申請を行うまでに3年の待機期間を設けるなどの厳しい政策を検討している。
それにしても、難民の財産を没収する案はとりわけ不愉快だ。この案は当然、国連の難民機関から外国人差別と非難されている。これは実質的に何の役にも立たない。到着する難民から没収した金銭は、ほとんど住居費や食費の助けにはならないだろう。この案は多くの絶望している人々がまずデンマークに入るのを思いとどまらせるため、無慈悲さを示しているのとあまり変わらないようにみえる。
難民を巡ってデンマーク政府にかかる圧力も無視できない。同国の人口は560万人で、昨年受け入れた難民申請希望者の数は2万1000人だ。これは英国が25万人を受け入れたのに匹敵する数で、政治的にあり得ないことだ。この規模での難民の殺到に対応できるかを懸念しているのはデンマーク人だけではない。ドイツでは同様の懸念が難民危機を、メルケル首相がこの10年の在任期間で直面する最大の難問に変えた。
■共通のアプローチ必要
こうした難民の流れは、ひとつの欧州連合(EU)加盟国から他の加盟国にその負担を移転するような「近隣窮乏化政策」では管理しきれないだろう。それよりも、欧州で共通のアプローチを取ることが不可欠だ。加盟28カ国は域外との境界に強力なEU国境警備隊を配置し、新たな入国希望者を到着地点で管理することに同意すべきだ。現在イタリアとギリシャにいる何万人もの難民はEU内に再移住させる必要がある。欧州委員会はEU首脳に対してこうした提案への署名をたびたび促してきたが、残念ながら支持はなかなか集まらない。
この難民危機は欧州の戦後史上で最大となるかもしれない。EU首脳がこの問題を乗り越えられるかどうかは予測できない。確かなのは、デンマークが検討しているような狭量なポピュリスト政策は問題解決に何の役にも立たないということだ。それらは欧州が70年間繁栄の基礎としてきた人道的な価値観を傷つけるだけだ。
(2016年1月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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