1909年、アメリカン・テレフォン・アンド・テレグラフ・カンパニー(現AT&T)の幹部だったエドワード・ホールはこう嘆いた。「一般市民は我々のことを知らない……一度も我々を見たこともなければ、会ったこともなく、どこに住んでいるのかも知らない」。彼の言葉は、1886年に企業に「人」の法的地位を与えた最高裁と、企業には人間味がないという国民からの不満の合唱の双方に対するものだった。
■根なし草になる企業
20世紀初頭の大企業とトラスト(企業結合)の台頭への不満は、セオドア・ルーズベルト大統領時代のトラスト退治につながった。
現在、ホール氏の発言との類似性を感じるのは、企業は根なし草で無国籍だという感覚、フェイスブックやグーグル、ファイザーが世界のどこに暮らしているのか誰も分からないという感覚だ。「どこであれ、たまたま株主にとって一番いい場所」というのが、その答えのように思える。米国のハイテク企業にとっては、これは欧州事業部門を税率の低いアイルランドに置くことを意味し、ファイザーにとっては、アイルランドで設立登記し直すために同国のアラガンと合併することを意味する。
ファイザーは計画中の1600億ドル(約19兆円)規模の合併をした後に、本社や株式の主要上場先市場、大半の従業員をニューヨークからダブリンへ移すわけではない。12.5%というアイルランドの法人税率の恩恵を受けるために登記先を移すだけだ。
ある意味、多国籍企業の策略は米国の奇妙な税体系に対する合理的な対応だ。米国の体系は、法人税率は高いが、企業が海外利益を国外に無税でため込むことを許しているからだ。これは、ただ単に「タックス・インバージョン(租税地変換)」を通じて会社を設立登記し直すだけでなく、2兆1000億ドルにものぼる上位300社の米国大企業の現金の山を、バミューダなどのタックスヘイブン(租税回避地)に隠す強力な動機になっている。
根なし草の企業は人間味のない企業のように感じ、どんな特定の場所にも忠誠心を持たない組織のように思えるのだ。
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