【萬物相】北の「激高調」アナウンサー李春姫

【萬物相】北の「激高調」アナウンサー李春姫

 台湾の人気コメディアン、タイ智源氏(タイは台におおざとへん)は、北朝鮮のアナウンサー、李春姫(リ・チュニ)氏のものまねが上手なことで知られる。「朝鮮ニュース」というコーナーで、韓服(韓国の伝統衣装)とかつらを身にまとい、「アンニョンハシムニカ(こんにちは)、李春姫です」と韓国語であいさつする。李氏は中国や台湾で「北朝鮮についてよく知らなくても、李春姫は知っている」といわれるほど有名だ。動画共有サイト「YouTube」には、激しく誇張された李氏のアナウンスをパロディー化した動画が数多くアップされている。米紙ニューヨーク・タイムズも数日前、李氏を「隠者の王国(かつて米国で朝鮮王朝を指した表現)のバーバラ・ウォルターズ(米国の女性ニュースキャスター)」と表現した。

 かつて女優だったという李春姫氏は、1971年から「テレビ放送員」を務めてきた。40年以上にわたって朝鮮中央テレビの主要ニュースを伝えた。北朝鮮のアナウンサーの間で最高の栄誉とされる「人民放送員」の称号も贈られた。北朝鮮の広報メディアは李氏を「迫力があり、訴える力が強い鉄のような声で、視聴者たちを強盛大国建設へと力強く鼓舞し駆り立てる放送員」と表現した。一方、日本の週刊誌は、李氏が1990年代に朝鮮労働党幹部と不倫をし、発覚したと報じた。だが、故・金正日(キム・ジョンイル)総書記から寵愛(ちょうあい)を受け、不問にされたという。

 2011年秋、李春姫氏がテレビから姿を消した。すると、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルをはじめとする外国メディアは先を争って報じた。それから約50日後、李氏は黒い喪服姿で登場し、金総書記の死去を涙ながらに伝えた。最近も引退のうわさが流れたが、今月6日に再び登場し、4回目の核実験を発表した。独特の激昂(げっこう)した口調で、核実験が「完-全に成功」と報じた。中国国営メディア「環球時報」は「70歳の老将が、響くような力強い声で、恐ろしい知らせを冷淡に伝えた」と報じた。72歳の李氏が再び登場したのは、「伝える姿勢が重大なニュースにぴったりだからだ」との見方を示した。

 アナウンサーたるものは、冷静かつ端正な声でニュースを伝えるのが常識だ。だが北朝鮮では、アナウンサーたちがニュースで感情を込めるよう訓練を受けているという。共産主義国や独裁国家での報道は、客観的な事実よりも宣伝、扇動が重視されるためだ。キューバの国営テレビでも、昨年ローマ法王が訪問した際、普段と変わらない「革命的な言語」で報じたという。

 かつて、感情的で過度に激高した李春姫氏の語調はむしろ物笑いの種になった。香港の日刊紙も「ほら吹きおばさん」というあだ名を付けたほどだ。これまで、北朝鮮の重大な発表の大部分は李氏が行ってきた。金日成(キム・イルソン)主席の死去、金正日総書記の死去、相次ぐ核実験など、世間を驚かせたニュースは全て、李氏の口から発せられた。李氏の登場は、韓半島(朝鮮半島)を揺るがす頭の痛い問題の前兆になった。今やこれ以上、李氏の姿を見て笑ってばかりいるわけにはいかない。金正恩(キム・ジョンウン)体制の予測不可能な状況が次第に深刻化しているためだ。

姜仁仙(カン・インソン)論説委員
<記事、写真、画像の無断転載を禁じます。 Copyright (c) The Chosun Ilbo & Chosunonline.com>
関連フォト
1 / 1

left

  • 【萬物相】北の「激高調」アナウンサー李春姫

right

関連ニュース