橘玲の世界投資見聞録 2016年1月7日

2016年はどんな年になるのか? 
テロの脅威、中国経済の失速、米大統領選、日本経済は…?
[橘玲の世界投資見聞録]

 新年に「今年はどんな年になるのだろうか」という、当たるも八卦当たらぬも八卦の話を毎年書いている。去年はどんな予想をしたのか読み返してみると、おおよそ次のようなことを言っていた。

[参考記事]
●2015年はどんな年になるのか? イスラム、欧州、そして中国の変動が日本に与える影響とは?

 

(1) 2015年1月7日に、フランスの風刺雑誌シャルリー・エブドへの襲撃事件が発生した。イスラーム原理主義者によるこうしたテロは今後も起こり得るし、ヨーロッパ諸国では移民排斥を求める政治勢力が台頭するだろう。


(2) 原油価格暴落という“異常事態”が起きており、資源国を中心に世界経済は動揺する。


(3) 資源価格の下落は中国の経済成長の減速によるもので、中国社会を不安定化させるだろうが、習近平政権の土台が揺らぐようなことはない。


(4) ギリシアでは緊縮財政に反対する急進左派連合に政権が移るかもしれないが、たとえそうなってもユーロからの離脱はない。


(5) イギリスの総選挙(5月)で与党(保守党)が苦戦し、英国独立党が大きく票を伸ばすようなことになれば、イギリスのEU離脱が現実味を帯びてくる。


(6) EUや中国、日本に比べてアメリカ経済は相対的に好調で、金融緩和も出口に向かっている。


(7) アベノミクスでは、日銀にできることはもはやほとんどない。

 

 こうしてみると予想外だったのはイギリスの総選挙でキャメロン首相率いる保守党が大勝したことくらいで、あとはほぼ「想定の範囲内」だ。しかしこれはべつに、私の世界を見る目が確かだと自慢したいわけではない。

 なぜこのような予想ができたかというと、それが構造的な問題だからだ。そしてこの構図は、今年も変わらない。

今後もテロへの恐怖はつづくと考えざるを得ない

 イスラーム原理主義者によるテロ再発の予想は、11月13日のパリ同時多発テロという最悪のかたちで現実化してしまった。その後、フランスだけでなくドイツやベルギーなど近隣諸国でも公共交通機関などへのテロ情報で緊張が走った。

 すでに繰り返し論じられているが、テロの背景にはヨーロッパで暮らすムスリム移民の疎外感や高失業率、経済格差などさまざまな社会問題があり、多くのムスリムの若者がIS(イスラム国)のプロパガンダに引きつけられていく。同時多発テロで明らかになったようにISはきわめて殺傷力の高い火器を運び込むことが可能で、今後もテロへの恐怖はつづくと考えざるを得ない。

 今年は6月10日からフランス国内でヨーロッパのサッカーの祭典UEFA EURO2016が開催され、サッカーファンがヨーロッパじゅうから押し寄せる。パリの同時多発テロでは、パリ郊外サンドニにあるスタッド・ド・フランスで行なわれたフランス対ドイツのサッカー親善試合が標的にされた。今回の大会は、厳戒のなかで行なわれることになるだろう。

 昨年1月の時点では、シリアを中心に100万人規模の難民がドイツを目指して押し寄せることは予想できなかったが、内戦による絶望的な状況を考えれば、ひとびとが生き延びる可能性がある場所を目指すのは当然だ。

 シリアの内戦はかぎりなく泥沼化し、欧米諸国やトルコ、サウジアラビアなどが打倒を目指すアサド政権をロシアとイランが支援し、アメリカ(欧米)とロシアがISの掃討で共闘する混沌とした事態になっている。内戦を終わらせる方途がない以上、難民の数は増えつづけ、春になって移動が可能になれば、トルコやヨルダンの難民キャンプに収容されているひとたちがふたたびヨーロッパを目指すことになるだろう。ただしそうなっても、ドイツにはもはや難民を受け入れる余地はないのではないだろうか。

 いまにして振り返れば、アメリカはイラクの復興に完全に失敗してISの台頭を許し、欧米諸国が歓喜した“アラブの春”は破壊と混乱をもたらしただけだった。昨年のノーベル平和賞はチュニジアに与えられたが、逆にいえばそれ以外のイラク、シリア、リビアはフセインやアサド、カダフィによる独裁の方がずっとマシだった、ということだ。

中国の株価の下落は本格的なバブル崩壊の前兆に過ぎない

 1992年の鄧小平による南巡講話から始まり、2000年代に入って加速した中国の高度経済成長は現代史に画期をなす出来事だったが、さすがに20年経って減速が鮮明になってきた。原油をはじめとする資源価格の高騰は中国の輸入によるもので、莫大なエネルギーと鉱物資源が都市部のインフラ整備につぎ込まれ、その多くが鬼城と呼ばれるゴーストタウンになった。中国の至るところで巨大な鬼城を目にした驚きから生まれたのが『橘玲の中国私論』で、「なぜこんな壮大なバブルが起きたのか」「バブル崩壊の結末はどうなるのか」を考えてみた。

 詳しくは本を読んでいただきたいのだが、そこから得られる現状分析は次のようなものだ。

(1) バブルは中国共産党の統治構造から生じており、暴力的に破綻するまで制御できない。

(2) バブルの本質は不動産価格の人為的な高騰で、株価の下落は本格的なバブル崩壊の前兆に過ぎない。


(3) 鬼城への融資は地方政府の信用を担保に行なわれており、地方政府の財政が破綻するようなことになれば(中国だけでなく)世界経済に激震が走る。


(4) 中国は中南米やアフリカでも資源を担保にした大規模な融資を行なっており、資源価格の下落によってこうした融資が焦げつく恐れがある。


(5) 経済成長があまりにも急速だったため、その調整にはそうとうな時間がかかる。それにともなって、中国社会のさまざまな矛盾が表面化するだろう。

 


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橘 玲(Tachibana Akira) 作家。1959年生まれ。早稲田大学卒業。「海外投資を楽しむ会」創設メンバーのひとり。著書に『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』『(日本人)』(幻冬舎)、『臆病者のための株入門』『亜玖夢博士の経済入門』(文藝春秋)、『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』(ダイヤモンド社)など。
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