(注記)これは2016年1月1日にフランス政府によって決定されたパリ第一大学パンテオン=ソルボンヌ校の付属施設「フランス革命史研究所」(Institut d'histoire de la Révolution française)の閉鎖を受けて、所長のピエール・セルナ教授(Pierre Serna)が一般向け雑誌『L'Histoire』の電子版(1月5日付)に掲載した声明「フランス革命史研究所への脅威」(Menaces sur l’IHRF)を訳出したものです。翻訳に当たって、フランス史を専門としない読者のために説明を補うなど、本文を一部改変した箇所があります。
2016年1月1日をもって、フランス革命史研究所(IHRF)は、もはやこれまでのような形では存在しなくなりました。フランス革命史研究所は1937年、人民戦線政権下の偉大な公教育大臣ジャン・ゼイによって、革命の始まった1789年の百五十周年を見越して創設されました。この独立した研究所は、パリ第1大学パンテオン=ソルボンヌ校の受け入れ下で存続していましたが、以下の三つの使命を担ってきました。すなわち、フランス革命研究に資金援助を行うこと、フランス革命に関する世界中で最も大規模な図書館の一つを利用可能にすること、そして革命期の議会資料の批判的校訂版を作成することの三点です。今回、2008年から研究所の所長を務めてきたピエール・セルナが、皆さんに一つの告知をいたします。
フランス革命史研究所は2016年1月1日をもって存在しなくなりました。ユルム高等師範学校(ENS)の近現代史研究所(IHMC)に吸収合併されたのです。フランス革命史研究所はパリ第1大学とフランス国立科学研究センター(CNRS)の共同機関ですが、1937年に偉大な革命史研究者ジョルジュ・ルフェーヴルの主導により、人民戦線政権下で創設されました。この独特な研究所はソルボンヌによって受け入れられ、フランス革命150周年を準備するという使命を帯びました。CNRSが1945年に創設される前から、すでにフランス革命史研究所は、旧体制期を学術的に明らかにできるような確固とした史料に基づくフランス革命史研究を確立しようと試みていました。
左派のフランソワ・オランド政権は2015年、人民戦線政権の公教育大臣であったジャン・ゼイをパンテオンに列聖しましたが、同じ年にジャン・ゼイの創設した研究機関を解体しようとするのですから驚きです。研究所の擁する博士課程学生数や公式ウェブサイト、ポータル「revues.org」によって公開された電子ジャーナル、そしてデジタル化の計画を見れば明らかなように、フランス革命史研究所は今日もなお活動的であり続けているのですが。
紛うことなき「記憶の場」であるフランス革命史研究所は、1886年以来、ソルボンヌのフランス革命・第一帝政史講座担当教授を輩出してきました。財政支援は当初はパリ市によって、次いで1891年からは国家によって行われました。以後、フランス革命史研究所は、革命や共和国の歴史に携わる幾世代もの学生や研究者、教授、そして市民を養成してきました。フランス革命史研究所は共和国の理念を守るとともに科学的な学問の場であり、ジョルジュ・ルフェーヴル、マルセル・レナール、アルベール・ソブール、ミシェル・ヴォヴェルといった所長の下で黄金時代を経験しました。研究所はフランス革命に関するあらゆる論争や議論の中心でありました。また他方で、ソルボンヌに2万冊近くの蔵書を有する図書館を創設しました。この図書館には2014年、フランス革命二百周年を挟む1983~1993年の期間に所長であったミシェル・ヴォヴェルの蔵書2千冊が補充されました。
フランス革命史研究所の使命の一つに『議会資料』の出版、すなわち議会資料の単なる刊行ではなく、一次史料の整理、検証に基づく議会議事録と議事に関係する史料の活字による刊行があります。この貴重な議事録、議会討論記録は、原本がフランス国立文書館の請求記号Cの系列に保存されているものです。さらに、研究所は今日、デジタル史料の刊行へと移行しつつあります。加えて、1789~1795年における全ての政令および法令から成る「ボードゥアン・コレクション」も利用可能になっています。
フランス革命史研究所は、毎年十名ほどの客員研究者を受け入れています。他の研究機関や大学の研究センターとパートナー関係を結んでおり、その所在地はフランスのみならずヨーロッパ、アジア、アメリカに及んでいます。確かに、CNRSはパリ第1大学において専門図書館の活動を継続することを約束しました。また、『議会資料』の刊行継続も保証されました。ですが、文化的なグローバル化が進む今日、国際的な影響力をもち、世界中の研究者の支持のもとに科学政策を打ち立てる能力をもつ研究所の制度的地位や財政的手段をどうして絶つのでしょうか。
ピエール・セルナ記す
source: http://www.histoire.presse.fr/actualite/infos/menaces-ihrf-05-01-2016-139698