文:藤島大
今やラグビー選手の枠を超えた「国民的スター」は、劇的な変化をどうとらえているのか。'16年、自身初となる海外挑戦を迷わず選んだ本当の理由は何か。五郎丸が本誌に率直な思いを明かす。
東海道線の磐田駅。静かな朝だ。ほんの数名を乗せて路線バスがゆったりと走る。ここから遠くない場所に列島の人気者がいる。
五郎丸歩。説明は不要だろう。ラグビーの日本代表のフルバックとしてワールドカップ(W杯)で南アフリカを破った。
ルーティンでおなじみの正確なプレースキック、忘れがたきトライとタックル。端正なたたずまいの背番号15は、あの歴史的な金星を境にヒーロー、いやそこにとどまらず「ヒーローにしてスター」と遇される。テレビに雑誌にその姿を目にせぬ日はない。
ひとつの勝利によって世界が動く。スポーツの醍醐味だ。師走のグラウンドをひた走り、ときに放送局の廊下も駆ける。公式戦で結果を残しながらメディアにも露出する。すべては愛するラグビーのためである。
「せっかく、ラグビーを日本の国民のみなさまにこれだけ知っていただけた。実際にはコンディションは落ちていないのですが、もし少し落ちたとしても、いまは与えられた使命、自分にしかできない仕事をするべきだろうと思っています」
最後のくだりに自覚がにじんだ。
ラグビーとは究極のチーム競技だ。耳たぶをカリフラワーの形状にしてスクラムを押し合い、人の壁に頭を差し入れては地面のボールを奪うフォワードがあって、バックスの美しいトライも生まれる。
しかし南アフリカ戦の金星をきっかけに興味を抱いたファンは、やはり「五郎丸」に引き寄せられる。
「ラグビー文化、スポーツ文化の定着した国であれば、いろいろな選手がスタジオに呼ばれると思います。日本の現状ではどうしてもキックのポーズが注目される。エンターテインメントとして扱われてしまう。でも、いまは仕方がない」
自分が露出することでラグビーの奥深さを知ってもらえれば。まさに使命である。W杯の快挙の前からのファンは、そんな姿勢を「同志」として理解、感謝もしている。
「(テレビ出演などが)好きか嫌いかといわれれば、そんなに好きではないですよ。拘束されますし。でも行けば行ったで楽しいところもある。初めての経験なので。そもそも相手に合わせるタイプでもありませんし、ことさらに苦手意識はありません」
有名であることには慣れたのだろうか。
「立ち位置は間違いなく変わりました。いい意味で自分自身にプレッシャーをかけられます。これだけメディアに登場して、パフォーマンスがよくない、試合を欠場する、というケースもありうる。そこを乗り越えて結果を出すという高いモティベーションを持ちたいですね」
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