読書人の雑誌『本』より
2016年01月07日(木)

ビジネス感覚のない研究者は一流になれない
~研究室という「組織」でうまく生き抜くコツ

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〔PHOTO〕gettyimages

文/長谷川修司

独りよがりのプレゼンは誰も聞かない

会社経営のバイブルとして長く読まれている『マネジメント』(ピーター・F・ドラッカー著、上田惇生編訳、ダイヤモンド社、2001)には、「我々は何を売りたいか」ではなく「顧客は何を買いたいか」を問う、という有名なフレーズが出てきます。この「お客様本位」の考え方は、会社経営という大きな話だけでなく、実は私たちが日常的に行うプレゼンテーションにもそのまま当てはまります。

プレゼンをする場面は今やいろいろな職業で頻繁に出くわすでしょうが、そのときに「何をプレゼンするか、何を聴衆にアピールするか」ではなく、「聴衆は何を聞きたがっているのか」を先に考えると、必ずや評判の良いプレゼンになります。わかりやすくてよかったよと言われて、その結果、契約が成立したり昇進したりする可能性が広がること間違いありません。

拙著『研究者としてうまくやっていくには』(講談社ブルーバックス)のなかでは、研究者が行う学術的プレゼンでも上記の「お客様本位」の考え方で準備しなさいと書きました。

研究者の場合には、学会でのプレゼンだけでなく、研究員としての採用面接、あるいは准教授や教授、グループリーダーへの昇格審査でのプレゼンなど人生を左右する場面でプレゼンが決定的に重要になります。そのときに、聴衆が自分のプレゼンに何を求めているのか、あるいは聴衆の知識や関心はどうなのか、それを先に考え、それらに応じてプレゼン内容やスタイルが違ってくるのは当然です。

それにもかかわらず、この「お客様本位」の考え方を認識している研究者は案外少ないようです。自分の成果をアピールするだけのプレゼンでは聴衆の心は離れていきます。

たぶん、優秀なセールスマンは、お客様のニーズを汲み上げていますといったトークをしながら、最後には自分の売りたいものを売りつけるわけで、そのような戦略性とテクニックを意識するかどうかで違いが出るのは研究者に限らずどんな職業でも同じことだと想像します。

拙著では、研究者を目指す学生や若手研究者を読者としてイメージしていますが、ビジネスなどいろいろな場面に応用できる「精神」を書いたつもりです。

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