軽減税率については色々な論点がありますが、あまり議論されないものとして「将来の拡大・利権化」ということはとても大きいと思っています。
軽減税率の先輩であるフランスを見ているとよく分かります。あの国では、概ねこんな感じで税率が決まっています。まず、本土で言うと、税率は20%、軽減税率として10%、5.5%、超軽減税率として2.1%があります。それに加えて、コルシカ用、海外領土用と別途の税率が定められていることもお分かり頂けると思います。
ただ、実際には色々と複雑でして、例えば、キャビア、フォワグラ、トリュフの三大珍味の内、キャビアだけが普通税率で後の2つは軽減税率です。理由は「国産品保護」です。
最近だけでも、フランスでは「家屋のエネルギー効率改善」について税率の変更がありました。説明すると長いのですが、法改正前の7%(軽減税率の内、高い方。法改正時に10%となった。)→5.5%(軽減税率の内、低い方)となりました。この経緯はココに書きました。当初は「熱の遮断(isolation)」といったものを念頭に置いていたのですが、対象自体も「効率的な暖房設置」みたいなものまでが含まれ、政治的にかなり拡大しています。
その他、近年ですと芸術品の輸入、スポーツイベントへの入場料といったようなものが軽減税率になっています。フランスでは頻繁にこの手の改正が行われているので、なかなか全体像を把握するのが難しいです。
さて、日本ですが、今は食料品・飲料水(酒は除く)、新聞からスタートですが、将来的にその時々の政策課題に応じて色々な軽減税率適用を考えるようになってくることを懸念します。フランスのように「環境に優しい技術を使ったものは軽減税率」、「(コルシカ、海外領土のような)地域優遇策としての軽減税率」、これらは日本でも容易に想像され得るものです。
そういう意味で、「これは蟻の一穴だ」と思うのは「新聞」です。食料品ですら対象範囲がよく分からずに大変であるにもかかわらず、新聞に軽減税率というのは絶対に蟻の一穴になります。新聞業界が口にしていた「活字文化」みたいな理屈は、別の業界でも容易に想像可能なものです。別の業界の理屈がダメで、新聞業界の理屈だけがOKだというその根拠を提示することは出来ないでしょう。
もっと言うと、「飴玉を貰ったからといって、政権与党に対するペンの力が下がるようなことが無いことを祈る。」ということです。厳しい言い方になりますが、新聞業界の方は「自分達は若干眉唾で見られる存在になってしまった。」と自重するくらいでいいのではないかと思います。
このまま突入したら、絶対に軽減税率は利権の温床化します。暫くしたら、「新聞が可能だったのだから、うちでも。」と思う業界が永田町に猛攻勢を掛けてくるはずです。当面思い付くのは、「環境」、「文化」、「社会保障」、「特定地域」、こういう理由での軽減税率適用希望が出て来るのをどう判断するかです。どれも元々の目的自体は崇高なものなので、反対しにくいということもあります。
将来的に更に消費税率が上がる場合、8%、10%、新しい税率の3パターンになる、そして、対象も細分化される、それらすべてのパーツに巣食う利権が出て来る、ということだってあり得るでしょう。もう既にフランスの軽減税率の姿は醜悪としか言いようがないのですが、その後を追っているように見えてなりません。
今年度補正、来年度予算の勉強をしながら、そんなことを考えました。