今月頭に日経MJヒット商品番付が発表された。スポーツやイベントなど友人らと熱狂・共感できる体験重視の「コト消費」に勢いがあると総括していたが、個人的にも注目しているのが共感の伝播(でんぱ)によるヒットの振り幅の変化だ。
ネット以前のヒットはマスメディアに取り上げられた当日や翌日に話題になり、数日経過し、マスメディアが一通り取り上げ終わると沈静化するのが普通だった。
クチコミによる広がりも存在したが、リアルのクチコミは伝播力が弱いため、クチコミだけではそれほど大きな話題になることはまれだった。
それがソーシャルメディアの普及により、クチコミのメディア力が強くなった。さらにマスメディアに可視化されたことで、マスメディアで取り上げられた商品が、その後ネット上でさらに話題となり、その広がりを見たマスメディアが再度それを取り上げる。
こんなマスメディアとソーシャルメディアの「話題のスパイラル」とでも呼ぶ現象が増えた。これにより、ヒットの振り幅が増大し、ヒットの話題のサイクルが長期化する傾向が出ている。
例えば又吉直樹さんの小説「火花」は、その作品自体の完成度や話題性が大ヒットにつながったのはもちろん、ネット上で火花が面白いか面白くないかという議論が白熱した。その結果、単行本の累計発行部数は奇跡的な快挙といえる200万部を超えた。
ハロウィーンフィーバーも、ハロウィーンの盛り上がりをマスメディアが取り上げ、それを見たユーザーが自らや友達の仮装をソーシャルメディア上で議論・共有し、それをまたマスメディアが取り上げた。実際のハロウィーン期間よりも長く話題のスパイラルが発生していた印象が強い。
今年前半にはハーゲンダッツジャパンの華もちやサントリー食品インターナショナルのレモンジーナ、ヨーグリーナが、発売後数日で品切れになり話題になった。これも明らかにソーシャルメディアとマスメディアの話題のスパイラルにより、ヒットの振り幅がメーカーの予想を超えた現象といえるだろう。
ハーゲンダッツジャパンは今月華もちを再販売するにあたり、初期販売数の10倍の商品を用意し満を持して再発売に臨んだそうだ。しかし、再販売においてもマスメディアでの紹介やソーシャルメディアでの話題の広がりが想定を超えたため、年明けまで持つと想定していた在庫が数週間でなくなるという、想定を超えた大ヒットになったようだ。
とくりき・もとひこ 名大法卒。NTTを経て06年アジャイルメディア・ネットワーク設立に参画、09年社長。14年3月から取締役最高マーケティング責任者(CMO)。
今後担当者が注意すべきは、この話題のスパイラルはネガティブなものでも起こりうるという点だ。
象徴的なのは五輪エンブレム騒動だ。海外デザイナーが五輪エンブレムの類似性を指摘した当初は、デザイン業界の専門家らの間では、商標登録がされていなかったなどの理由から日本側が訴訟で負ける可能性は低いという見方が大筋だった。
だが、その後デザイナーの過去の仕事の不手際などが次々にネットユーザーによって明らかになった。それがマスメディアに取り上げられ、ネット上で批判が広がるという話題のネガティブスパイラルが止まらなくなった。
つまり、話題になるものがますます大きな話題になる時代の到来だ。来年はこうしたマスメディアとソーシャルメディアの話題のスパイラルの視点でヒット商品を考えてみてはいかがだろうか。
(アジャイルメディア・ネットワーク取締役)
〔日経MJ2015年12月27日付〕
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