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 報道の自由か、名誉の毀損(きそん)か――。朴槿恵(パククネ)大統領のうわさをめぐる産経新聞記事の裁判で、韓国の裁判所は無罪を言い渡した。判決直前、韓国政府は裁判所に異例の「配慮」を求めた。停滞する日韓の外交交渉に弾みはつくのか。

■ざわつく法廷

 ソウル中央地裁の傍聴席は100人を超える報道関係者らで埋め尽くされた。報道関係者や韓国の法曹界の大方の見方は「有罪」だった。

 午後2時前、裁判長と裁判官2人が法廷に入った。裁判長は判決の言い渡しを始める前に、外交省から検察側を通じて、裁判所に提出された文書を読み上げた。行政府である外交当局が司法府である裁判所に要請をするのは極めて異例だ。傍聴席がざわついた。

 加藤氏は立ったまま判決の読み上げを聞き続けた。記事で書いた「うわさ」が虚偽で、それを加藤氏も認識していた。裁判長は争点にそって一つひとつ判断を示していく。無罪が予想される内容になると涙をこらえているようにも見えた。

 「無罪」。傍聴席が再びざわついた。判決言い渡しは日本語の逐次通訳が入り、公判が終わったのは午後5時過ぎになっていた。

 加藤氏が問題の記事を書いたのは昨年8月。その後、出国も禁じられ、昨年10月に起訴された。出国禁止は今年4月まで続いた。

 一方、「事件の被害者」になった朴大統領は問題の記事について公の場で語ることはなく、沈黙を守り続けた。韓国外交省は「司法の問題」とかわし続けたものの、「検察が起訴しなければ良かった」と漏らした政府関係者もいた。

 判決について韓国のメディア専門家は「前支局長が報道で取り上げた疑惑は誤った事実ということを再確認する一方、言論の自由という憲法的価値は守る絶妙なバランスを取った」と述べた。