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南海トラフ地震 超高層ビルの揺れ 想定を初公表
12月17日 17時33分

南海トラフで想定される巨大地震の「長周期地震動」で、超高層ビルなどの揺れがどれくらいの大きさになるのか、国の検討会は初めての想定を公表しました。大阪市の埋め立て地では、最上階の揺れ幅が最大で6メートルに達するほか、東京、大阪、名古屋周辺の三大都市圏では沿岸部を中心に2メートルから3メートルと、いずれも東日本大震災を大きく上回る想定となりました。
「長周期地震動」は超高層ビルなどを大きくゆっくりと揺らす周期の長い地震動で、震源から離れても揺れが衰えにくく、4年前の東日本大震災では東京や大阪などでエレベーターが止まったり、壁や天井が壊れたりする被害がでました。
国が想定している南海トラフの巨大地震では震源域が浅く、陸地に近いためにさらに揺れが強まると予想され、国の検討会は高さ60メートル以上の超高層の建物への影響について検討を進め17日、初めての想定を公表しました。
想定では過去300年余りに南海トラフ沿いで発生したマグニチュード8クラスの5つの地震と、それらを考慮したマグニチュード9クラスの合わせて6つの地震について、長周期地震動の影響を計算しました。
その結果、最も影響が大きいマグニチュード9クラスの地震では地盤などの影響が大きい三大都市圏の沿岸部を中心に最上階の揺れ幅が2メートルから3メートルに達する結果となりました。特に大阪・住之江区の埋め立て地では高さ200メートルから300メートル程度の建物で、最上階の揺れ幅が最大でおよそ6メートルに達しました。住之江区の埋め立て地は東日本大震災でも被害が出た、高さ250メートル余りの大阪府の咲洲庁舎がある場所です。いずれも東日本大震災での揺れを大きく上回り、室内では天井や壁が壊れるほか、低い家具が転倒したり、キャスターの付いた家具が勢いよく滑ったりするなど、中にいると大きな危険が及ぶおそれがあるということです。
また地面の揺れは千葉県や愛知県、大阪府など7つの府県で5分以上、神戸市や大阪市の沿岸部の一部では6分以上続き、建物ではさらに長い時間、揺れが続くおそれがあります。
今回の想定では建物の倒壊には至らないという結果になりましたが、検討会では実際には揺れが想定を上回るケースや、古い建物で被害が大きくなるおそれもあるとしています。超高層の建物は全国でおよそ2500棟あると見られ、検討会では超高層の建物の所有者や管理者などに、今回の想定をもとに、建物ごとに影響を詳しく調べて必要な対策を進めるよう求めています。

専門家「知見乏しくさらに大きい揺れの可能性も」

想定される南海トラフの巨大地震に伴う長周期地震動の想定は、検討を始めてから今回、まとまるまでに3年3か月かかりました。
巨大地震による長周期地震動を観測した例が少なく、科学的な知見も乏しいためです。マグニチュード9の4年前の巨大地震で、東京や大阪などの超高層ビルは大きく揺れましたが、専門家は、地震の規模に比べて長周期地震動はさほど強くなかったと指摘しています。
検討会の委員を務める東京大学地震研究所の古村孝志教授によりますと、想定される南海トラフの巨大地震では震源域が陸に近いことや、海側に軟らかい堆積物がたまっていて長周期の揺れが増幅しやすい場所があることなどから、4年前の巨大地震と比べて長周期の揺れは明らかに大きくなる傾向があるということです。
そのうえで古村教授は今回の想定について「過去300年余りに起きたマグニチュード8クラスの地震でさえも、場所によっては最大クラスとそう変わらない非常に大きな長周期地震動が起きることが分かった。次に南海トラフで地震が起きる場合には、長周期の揺れが大きくなることを考慮して対策をとる必要がある」と指摘しています。一方で、今回の想定で、マグニチュード9クラスの地震による長周期地震動を「最大クラス」としたことについて「長周期地震動はまだ研究の途中で、本当に最大級の長周期地震動がどういうものなのかはまだよく分かっていない。南海トラフで起きる地震で、今回の想定以上の揺れはないというものではなく、さらに大きな揺れが起きる可能性もある」としています。

被害瞬時に判定するシステム導入進む

超高層の建物が建ち並ぶ新宿駅西口の超高層ビルでは4年前の東日本大震災での長周期地震動で、建物が大きく揺れ、中には天井の一部が落下するなどの被害が出て、ビルのテナントの従業員などが屋外へ避難しました。建物の構造そのものに大きな損傷はありませんでしたが、専門家によりますと、鉄骨構造のビルでは外見上は変化がなくても、柱やはりなどが大きく壊れ、とどまることが危険な場合もあるということです。
このため、新宿駅西口の超高層ビルが建ち並ぶ地区では研究者や建設会社などがビルの所有者などと協力して、地震による建物の揺れを自動的に計測して、大きな損傷などがないかを瞬時に予測するシステムの導入が進められています。システムでは複数の階に地震の揺れの大きさなどを測るセンサーを設置してデータを集めます。地震が発生すると、観測された揺れの大きさなどから各階の柱やはりの変形の大きさを計算したり、天井や棚に被害が出ていないかを推測したりして、大きな損傷のおそれがある階や被害が出ていそうな階を地震の直後に自動的に判定して表示します。
同じ地区のデータはインターネットを通じて共有できるため、地区全体の被害の状況が把握できるほか、過去の地震での影響を考慮した計算をすることもできるということです。この地区ではこれまでに合わせて6棟に設置されていて、ことし新たに導入した50階建ての専門学校のビルではシステムを利用して、大地震などの際に、建物の状況や高層階と低層階の揺れの違いを速やかに把握し、避難のタイミングを判断して学生の安全を確保するのに役立てたいとしています。
専門学校を運営する学校法人の木村泰己理事は「東日本大震災の際には建物には被害はなかったものの、高層階では大きく揺れて生徒から不安な声が上がった。建物が揺れている最中に大勢が一度に避難すると、転倒してけがをする危険性もあり、避難誘導を行うための適切なタイミングを見極めることにも役立つと考えている」と話していました。
オフィスビルでの導入は徐々に広がっていますが、マンションなどでの普及を進めるには1棟当たり、数百万円かかる費用が課題だということです。計画の責任者の慶應義塾大学理工学部の三田彰教授は「例えば中古のマンションで売買の際にシステムの導入を示すカルテのようなものがあれば、資産価値もあがり、導入につながるのではないか。将来的には清掃などを行うロボットにセンサーを組み込むなど、普及に向けた技術開発も進めていたい」と話しています。

相模トラフ沿いの地震想定まとまらず

今回の検討会では首都圏に最も影響が大きいとされる、相模トラフ沿いで想定されるマグニチュード8クラスの地震に伴う長周期地震動の揺れについては、想定はまとまりませんでした。今後、さらに検討を進めるとしていて、今後の結果によっては影響がさらに大きくなるおそれがあります。
相模トラフは関東南岸の相模湾から房総半島沿岸にかけての海底で、陸側のプレートの下に海側のプレートが沈み込んでいる場所です。90年余り前にはプレートの境界がずれ動いて、関東大震災を引き起こした地震が発生するなど、首都圏に大きな被害を及ぼすマグニチュード8クラスの地震が繰り返し起きてきたと考えられています。震源域が直下のため、首都圏への長周期地震動の影響が最も大きくなる可能性があり、国の検討会は相模トラフで想定される地震についても想定を出すことにしていました。しかし、都市の直下の震源の場合に、揺れがどう増幅されるのか科学的な知見が乏しく、揺れそのものも巨大なことから、今回の想定の公表は見送られました。内閣府では今後、改めて検討会を設けるとしていて、今後の結果によっては影響がさらに大きくなるおそれがあります。
東京大学地震研究所の古村孝志教授は「相模トラフは、関東平野のほぼ真下にあるため、マグニチュード8クラスの地震が起きた場合、首都圏では今回の想定よりはるかに大きく長い揺れのおそれがある。南海トラフに比べて将来、地震が発生するまでの時間的な猶予はあるかもしれないが、仮に地震が起きた場合、深刻な被害が予想されるので最新の知見を反映させて集中的に議論する必要がある」と話しています。

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