伊藤綾、浅井文和 ワガドゥグ=三浦英之
2015年12月15日00時55分
アフリカや中南米で流行してきた寄生虫病「オンコセルカ症」(河川盲目症)などの特効薬の開発でノーベル医学生理学賞を受賞した大村智・北里大特別栄誉教授(80)の業績は、途上国などで広がる熱帯病への取り組みの重要性を浮かび上がらせた。そうした課題解決を後押しする動きが国内でも広がっている。
安倍晋三首相も12日付の英医学誌ランセットに寄稿し、来年5月の伊勢志摩サミットなどで国際保健に貢献する決意を示した。
世界保健機関(WHO)は患者の多くが貧困層で、薬の開発や普及が進んでいない、オンコセルカ症など17の病気を「顧みられない熱帯病(NTDs)」としている。安倍首相は今年5月、アフリカのNTDsに焦点を当てた国際共同研究の推進を表明。ランセット誌で、新設した日本医療研究開発機構(AMED)などを通じた国際保健分野でのイノベーションの必要性に言及した。
AMEDは今年度から5カ年計画で、日本とアフリカの大学による国際共同研究を開始した。NTDs限定プログラムは初めてで、流行の監視や予防、診断、創薬の研究開発を進める。担当者は「日本の研究者が現地に行って現地の研究者と一緒に行う研究を目指している。研究にとどまらず、より実践的な対策につなげていきたい」と話す。
NTDsは世界149の国と地域で流行し、感染者数は14億人に上る。アフリカなどで年間50万人以上が命を落とすだけでなく、障害で就労できなくなるなど、貧困を加速する要因にもなっている。
治療薬の開発が十分進んでこなかった現状に対して、日本をはじめ各国や企業が連携して対策を進める動きがある。2008年の北海道洞爺湖サミットでは首脳宣言にNTDs感染者への支援が盛り込まれた。12年にはWHOなど官民連携の「ロンドン宣言」で17疾患のうち10種について、「2020年までに制圧する」ことが確認された。
外務省や厚生労働省、製薬企業などが2013年に設立を発表した「グローバルヘルス技術振興基金(GHIT)」は官民のパートナーシップで、途上国の最貧困層が必要とする画期的な薬の開発を目指して研究費助成などを行っている。
大村さんは13日、帰国直後の会見で「我々の研究にスポットをあてていただいたということは(ほかの熱帯病の共同研究をするという)機運をつくるのに、非常に役立ったのではないか」と話した。(伊藤綾、浅井文和)
残り:1340文字/全文:2337文字
おすすめコンテンツ
PR比べてお得!