[PR]

 選手として全日本選手権10連覇、五輪に2度出場。指導者としても50年近いキャリアを持ち、現在は浅田真央らを教える佐藤信夫コーチが、フィギュアの魅力や難しさ、指導者としての思いなどを語ってくれた。

■佐藤信夫のフィギュアよもやま話

 フィギュアスケートは、見た目の華やかさとは裏腹に、過酷な競技だ。私が現役だった50年ほど前、フリーの演技時間は5分間(現在は男子が4分半、女子が4分)。音楽が鳴ったらノンストップだ。4分が過ぎてスピンを回ると、酸欠状態で視界が薄暗くなったのをよく覚えている。

 フィギュアの動きを自動車に例えるならば、トップスピードで走って赤信号で急ブレーキをかけるようなものだ。選手たちはそんな動きを絶えず繰り返しながら、難しいジャンプやステップをこなしている。

 現在の採点方式になったここ10年ほどは、難しい技をやればやるほど、得点は足し算で積み上がっていく。私の現役時代には、演技の中盤で休んで力を蓄える傾向があったが、今の時代は技を詰め込まないと、上位には残れない。

 教えるコーチにとっても、大変な時代だ。トップ選手の多くは男女とも、小学校を卒業する12、13歳でアクセルを除く5種類の3回転ジャンプをマスターする。ジャンプは語学と似ていて、成長するとなかなか身につかない。けがの心配はつきまとうが、ジャンプ練習を繰り返して体に染みこませるしかない。

 年齢によっても、指導法を考えなければならない。子どもの選手には、時に厳しく指導することもある。だが、20歳を超えて大人になると、選手にもそれぞれの考え方が芽生えてくる。

 指導する浅田真央は、今年で25歳になった。10代のころのように、体の回復も早くないと感じる。状態はその日によって良かったり、悪かったりで、試行錯誤を繰り返している。

 25歳の選手を教えるのは、私の指導歴の中で初めてだ。言葉遣いからしても、手探りなところがある。大人の選手に「お前、何をやってるんだ」と叱ることはできない。理論的に説明し、納得させた上で練習させるようにしている。

     ◇

 さとう・のぶお 1942年1月、大阪府生まれ。選手として60、64年の五輪に出場し、65年の世界選手権で4位。引退後はコーチとして、娘の佐藤有香を世界選手権金メダルに導いたほか、安藤美姫や村主章枝らを指導した。現在は、浅田真央や小塚崇彦らを教える。2010年に世界フィギュアスケート殿堂入り。