編集部Kです。自分の体形を確認するにつけ、ジムとか食事制限とか体型カバーの服とかいったものを全部すっ飛ばして、首から下だけ「ミランダ・カーにチェンジ」することを夢見る怠惰な人間です。首から下だけシャラポワというバージョンも楽しそうです。恐ろしいほどの瞬発力を発揮して、激情ほとばしる原稿をバンバン書く無敵の仕事人間になれる……気がします。
そんな妄想が、あと2年もすれば現実になりうるかもしれません。2017年のクリスマスに、頭部に他人の身体を接合する「頭部身体吻合」が行われる予定なのです。そんな“世紀の大手術”の背景をつまびらかにした記事を、現在発売中の弊誌に掲載しております。
「人類初の頭部移植をやってみせよう」 こう豪語するのは、イタリア人のセルジオ・カナベーロ医師です。トリノの病院に外科医として勤務していましたが、前代未聞の「頭部移植」論文を発表してイタリア医学界から総スカンにあいます。行き場を失ったカナベーロ医師は、ビル・ゲイツ財団などに支援を求めますが断られ、結局、中国のハルビンで受け入れが決まったのです。
「計画は進んでいく。世界の終わりや核爆発、隕石の衝突でも起こらない限りね」
移植手術を受けるのは、ロシア人の31歳の青年です。ネットでこのプロジェクトを知り、歴史的な科学研究に携わりたいと、自ら“実験台”となることを申し出たそうです。
カナベーロ医師が「スカーミッシュ(吐き気を催す)どころかゴーリー(血塗られた)だ」と表現するその手術、勇気がある人は下の手順をご覧ください。
1.手術前に、脳機能が損傷しないように患者の頭部を15℃以下に冷やす。こうすることで血液の流れを1時間半、停止することが可能になる。人間の脳を酸欠状態で保つのは、この温度と時間が限界である。
2.患者とドナーの血管にヘパリン(血液凝固抑制剤)を導入する。そして頭部の動脈・静脈を、身体部分の動脈・静脈と接合する。
3.脊椎を金属で固定する。
4.最後に筋肉組織と皮膚をつなぎ合せる。電流刺激により脳を活動させる。
上記の手術に、少なくとも36時間、スタッフ100人以上(うち80人は外科医)、そして1000万~1500万ユーロ(約20億円!)を要するとのこと。
現在のところ、カナベーロ医師は世間に“変人”扱いされています。が、彼がやらなくとも、いずれ誰かがこの手術に挑むことになると医療関係者は言います。成功すれば、医学の歴史を変えるかもしれないのですから。
ただ、患者のロシア人青年の願いは、SFに描かれるような超人的な肉体を得ることではありません。ただ、ごく普通の、ありふれた生活を望んでいるのです。重度の筋委縮症を患っていて生まれてからずっと車椅子生活を送っている彼は、こう確信しているそうです。
「この手術がどういう結果をもたらすにせよ、僕は今よりは自由になる」
頭部移植手術は、青年の人生に希望をもたらすのか、それとも常軌を逸した人体実験なのか、あるいはカナベーロ医師の言うとおり「人類史上最も偉大な革命」となるのでしょうか。
◆過去のエントリー◆
・「天才」と「頭がいい人」は何が違うのか
・死が「選択肢の一つ」になる日
・2015年に注目を集めるテクノロジーのトレンド予測(後編)