日本助産師会が、「赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援(仮)」を作成しました。
母乳育児を推進するための実践ガイド。
UNICEF/WHOの「母乳育児成功のための10ヶ条」を実践するために助産師が、どう指導したら
いいかというのを独自に考えたそう。搾乳や人工乳で補いつつもほぼ母乳育児で児の成長を
促せることを伝える内容になっているとのことです。
これに対して、パブリックコメントを募集しています。パブリックコメントっていうのは、
意見公募手続き、意見提出制度とも言って、広く一般の人にも読んでもらった上での意見や情報、
改善案などを求めるものですが、それを送ってほしいんですって。
↓「赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援(仮)」に関する御意見の募集について
http://www.midwife.or.jp/b_attendant/breastfeeding.html
pdfになっているので、ぜひ読んでみてください。
先日、私は母乳・ミルク育児についての本を出版したので、出版社と宋先生との連名で意見を
送りました。それとはまた別に、私個人の意見は以下のとおり。
p4-5のビタミンK2についてはっきり投与の重要性と投与しなかった場合の責任追及について
これが書いてあるのはとても良いと思います。2009年10月にビタミンKを与えられなかった児の
死亡例がありますから、大事な問題ですね。
p7第1条 母乳育児についての基本方針を文書にし、関係するすべての保険医療スタッフに周知
徹底しましょう。
これはいいんだけれど、考え方と基本的方法にある「お母さまもまた赤ちゃんに乳を授けること
で本来の力を目覚めさせます」っていう言葉はいらなくないですか?本来の力ってどういう力?
ミルクをあげているとそれが目覚めないんでしょうか?抽象的すぎませんか?
続くp8の「お母さまと赤ちゃんがキラキラ輝いて」の文言、いらなくないですか?母乳をあげて
いないとキラキラ輝かないんですか?キラキラ輝いてないといけないですか?キラキラ輝くって
なんですか?
この方針をHPに掲げたり、カードにして持ち歩いたりすることを推奨しているようなんだけど、
善意に満ちた目で助産師さんが、産んだばかりの私に「キラキラして本来の力を目覚めさせ
ましょう」って言ってきたら大変、ひくと思います。宗教みたいじゃない?
p20第6条 医学的に必要がない限り健康な新生児には母乳以外の栄養や水分を与えないように
しましょう。
これは小児科医としてのお願いなんだけれど助産師さん達、厳密な血糖や尿量のチェックのもと
に行ってください。なぜそんなことを言うかというと、この本のp89辺りをご覧ください。
健康な新生児であっても母乳不足から低血糖脳症や脳梗塞などの深刻な状態になりうるからです。
母乳は子どもを育てるためにあるので、母乳を出すために赤ちゃんがいるわけではありませんね。
p30第9条 母乳で育てられている赤ちゃんに、人工乳首やおしゃぶりを与えないように
しましょう。
これは、WHOが言っているとおりなんだけれど、それに「人工乳を哺乳瓶で補足すること、
おしゃぶりをつかうことの危険性」とあります。なにか日本では特別な危険性があるでしょうか?
乳頭混乱を起こすからと説明されているけれど、実際には母乳も哺乳瓶からも飲める子の方が
多いのです。しかし、これを読むと必ず母乳からは飲まなくなるのではないかとも読めてしまい
ます。どのくらいの頻度で起こるんですか?さらに赤ちゃんの体重増加が悪くなり、母乳が減る、
哺乳瓶やおしゃぶりは感染の原因になる、中耳炎や歯科的な問題が人工ミルクの子に多いと
あります。これは実際の頻度を書かないと必発のように感じる方がほとんどだと思います。哺乳瓶
やおしゃぶりが原因で感染症になったお子さんを現代日本で診察したことのある小児科医がどの
くらいいるでしょうか?私も同僚も聞いたことがないです。その直後に書いてあるカップ授乳や
スポイト、シリンジでの授乳をするように書いてあるのが、熟練した医療者のもとでなく各家庭
に任されたら、そちらのほうがはるかに誤嚥の危険性が高くよくないと感じます。
そして、先日から私は一部の助産師のひどい”指導”についてブログにしてきました。
この日本助産師会の「赤ちゃんとお母さんにやさしい母乳育児支援(仮)」には、こういった
非科学的で、トンデモ育児情報、ニセ医学を排除するような項目は一切ないです。
お母さんたちがほしいのは、食事がどのくらい母乳に影響するかとか、飲んでいい薬は何かとか
そういった情報や安心感ではないでしょうか?このままだと、母乳はすばらしい、母乳は最高、
ミルクは危険、哺乳びんは悪という偏った情報で母たちを追い詰めるだけではないですか?
そう思ったので、今日はブログを更新する日と決めた曜日じゃないんだけど更新します。
パブリックコメントの募集は12月10日までなので、ごくごく普通のお母さん、母乳育児で苦労
したお母さん、助産師のひどい言葉に傷ついた女性、そういう母達の夫、小児科医たちはぜひ、
読んでコメントを送ってみてください。
さっき、私は同僚の産婦人科医にお願いしてきた~。