美濃加茂市は新たなPR効果を期待──オタクによる「フェミ」批判の醜さが目立った『のうりん』ポスター騒動の顛末
2015/12/3 18:00 おたぽる
岐阜県美濃加茂市で市が実施しているスタンプラリーのポスターに使用されているキャラクターが「セクハラ」などと批判を受けている問題。論争は「巨乳差別だ」などなど、人生に何かを抱えた人々がルサンチマンを晒し合う方向へと迷走。当の美濃加茂市は騒動によるPR効果を期待するという状況が生まれている。
問題となっているポスターは2014年1月からワンクール放送されたアニメ『のうりん』のヒロインのひとりである、良田胡蝶を用いたものだ。これを告知していた市観光協会のTwitterに「セクハラ」「女性の目から見て不愉快きわまりない」「こんな街、ぜったいに行かない」「萌え絵汚染」などの批判が寄せられた。それに対して「巨乳差別」「表現弾圧」といった反論も集まり「フェミの魔の手」「フェミ総会屋」などという言葉も登場している。
オタク表現への批判が現れた時、オタクを自称する側が批判者をフェミニストと仮定し「フェミガー」と罵倒してカタルシスを得るいつもの展開に突入しているわけである。
新聞各紙の報道によれば、騒動を受けて観光協会では駅に貼ったポスターを撤去したという。
何やら大騒動になっているように見える問題。ところが、当事者である美濃加茂市では、ほとんど問題になっていない。取材に応じた観光協会の担当者は語る。
「電話やメールで抗議と応援の両方が寄せられています。電話は20本くらいあって、抗議のほうが多いのですが、逆にメールは7割近くが応援するものです。確認できる範囲では、ほとんどが県外から寄せられているものです。ポスターを掲示してくれている店舗にも聞いてみましたが、特に問題になっているという声はありません」
担当者が強調するのは、問題となったポスターが市内に溢れているわけではないということ。このポスターは、今回が4回目になるイベントのもので、市の観光PRではないが、抗議も応援もその点を理解していないものが多いという。
何よりイベントの趣旨はあくまで「聖地巡礼」に来てくれる人々が対象だともいう。そのためイベント開催にあたって、作成された大判のポスターは1枚だけ。スタンプラリーに協力している市内の21店舗にA3サイズのポスターを配布して掲示。チラシは500枚印刷と、イベントとしての規模は小さいものだ。
この問題の論点のひとつに上がっているのが「行政が作成するポスターとしていかがなものか」という意見と「観光協会が行っているもので行政の事業ではない」というもの。
これは行政の事業の一環という認識で間違いはないようだ。観光協会は美濃加茂市役所の産業振興課の中に設置されている。また、前述のポスターの作成経緯の中で担当者は「役所の中でデザインして印刷した」とも述べている。
さらに話を聞いていくと、なぜ観光協会が担当し、問題になるキャラクターの画像が使用されたのかもわかってきた。「聖地巡礼」を用いた町おこしには、アニメに詳しい職員などが関与する事例も増えているが、美濃加茂市の場合、そのような人物はいなかった。そのきっかけになったのは、アニメの製作にあたって製作委員会側からロケハンへの協力を求められたことだ。それを契機として、作品の原作者を招いてのイベントなども開催されることになった。
「ただ、作品内容に性的な側面もあるので市として全面的に行うのは困難という判断もあり、観光協会が担うことになったんです」(前出の担当者)
そして、今回のポスターで良田胡蝶が用いられたのは、単に選択肢がなかったからだという。
「ポスターなどに使用している画像は、最初に製作委員会から送られた二次使用可能な素材から選んでいます。去年から4回目のイベントになるので、選択肢も減っています。協力体制ができているので、使用料は無料です」(前同)
これまでに「聖地巡礼」に訪れた観光客の数は観光協会が把握しているだけで3,000人あまり。少ない元手で人口5万4000人の自治体に3,000人もの観光客が訪れた(試しに「じゃらん」で美濃加茂市の宿を探してみたら、4軒。これまで、観光地としての魅力には欠けていた様子)のだから、より『のうりん』ファンにアピールしたイベントを開催する気になるのは必然だ。
「『のうりん』関連イベントは効果があるという認識です。今回の騒動でイベントを知った人も、ぜひ来てくれるとうれしいですね」(前同)
この「のうりんスタンプラリー」は来年1月31日まで先着500名で開催。3つの店舗でスタンプを押してもらうと「特製ウッドバッチ(3種)」がもらえる。美濃加茂市では、観光客を対象に、預かり金のみの無料レンタサイクルも実施しているので、街をめぐりながらスタンプを集めることができる。
またもやTwitterなどを用いて「セクハラ」だとか「フェミガー」という応酬を繰り返すことで、何かのルサンチマンを晴らした気分になっている人々の醜さを見せてくれた騒動。とりわけ「表現の自由」を主張しながら「フェミ」という言葉を使うオタクの側を自認する人々は哀れなことこの上ないと思った。
この騒動がなにかの役に立った面があるとすれば、主催の側も上限500人程度しか想定していないイベントを広く知らしめる役割を果たしたことだろうか。『JR私鉄全線乗りつぶし地図帳』(JTBパブリッシング)で、高山本線が真っ白な筆者も、この機会に行ってみようという気になった。冬の青春18きっぷの販売はもう始まっているぞ。
(ルポライター/昼間たかし http://t-hiruma.jp/)
投稿ありがとうございます。
ログインしてコメントを書くよかったらログインしてコメントも書きませんか?閉じる