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新興国は汚職を根絶できるか?

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シャマイラ・カーン

アライアンス・バーンスタイン・エル・ピー
エマージング・マーケット社債運用
ポートフォリオ・マネジャー 
 

 

 

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2015年11月27日

 

このところ新興国市場の資産価格が乱高下しているが、中期的な見通しは明るいとアライアンス・バーンスタイン(以下、「AB」)は考えている。その理由は、一部の新興国政府が汚職問題に真剣に取り組んでいるからである。
 
アジアから中南米にいたる各国の政府は汚職を取り締まり、政治やビジネスの透明性を高める取り組みを進めてきた。例えばブラジルでは、国営石油会社ペトロブラスを巡る贈収賄スキャンダルに絡んで一部の有力政治家が正式に起訴されたほか、何人かの企業幹部が収監された。
 
皮肉なことに、詐欺や賄賂、その他の汚職を根絶しようとする試みは、新興国社債市場のボラティリティを押し上げる大きな要因となった。なぜなら、政治家や企業幹部が収監されれば、通常は短期的に政治が混乱し、政策が機能不全に陥り、経済成長の鈍化につながるからだ。そして、投資家は眠れぬ夜を過ごすことになる。
 
ブラジルの場合、ペトロブラスのスキャンダルは政府にとって不可欠な財政改革努力を困難なものにし、短期的な経済見通しを悪化させた。スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)はそれを受け、ブラジルから投資適格級の格付を奪った。その結果、投資家はブラジル資産の売却に動いた。
 
 
改善に向かうコーポレート・ガバナンス
 
市場参加者は新興国市場全体に広がるこうした短期的なリスクを織り込んでいる。そして、多くの新興国通貨が急落し、ボラティリティは急上昇した。
 
しかし現在のところ、反汚職キャンペーンがもたらすと思われる中期的なプラス効果を投資家は見過ごしている。具体的な例としては、コーポレート・ガバナンスの改善やより透明性が高い財務情報の開示、政府から独立した司法制度の構築、自由で活気ある現地メディアの誕生などが挙げられる。
 
新興国市場が過去数カ月にわたり困難に直面してきたにもかかわらず、米ドル建て新興国ソブリン債の代表的なベンチマークであるJPモルガンEMBI グローバル指数は、2015年8月31日までの2年間に年率5.1%のリターンをあげた。それは債券市場でトップクラスのパフォーマンスである。
 
同じ期間に、新興国社債市場を代表するJPモルガンCEMBI ブロード・ダイバーシファイド指数は年率5.3%近く上昇した。政治やビジネス環境の透明性向上に向けた動きは、多くの新興国における今後の投資環境改善につながると考えられる。
 
 
街頭に繰り出す人々
 
中国、ブラジル、インド、マレーシア、グアテマラなど様々な国における反汚職キャンペーンにようやく弾みがついたのは、なぜだろうか?
 
それは、海外の投資家から求められたためではない。ABをはじめ数え切れないほど多くの資産運用会社は、何年も前から新興国の政策当局者に対して透明性の向上とガバナンス改善を求めてきたが、ほとんど効果はなかった。
 
だが、ここにきてようやく変化が生まれている。多くの国で平均的な市民が指導者に対する要求を強め始めた。彼らは汚職やごまかしの摘発を求めるとともに、環境汚染や社会保障、経済的機会といった重要な問題に真剣に取り組むよう政治家に要求している。
 
ブラジルやグアテマラ、そして世界の国々で起きたように、人々が街頭で抗議活動を繰り広げ、現地メディアが毎日のように汚職について伝えると、各国の指導者は突然人々の声に耳を傾け始めた。例えば、ブラジルのディルマ・ルセフ大統領の支持率は一桁に落ち込み、自身の弾劾を求める有権者や政敵の圧力に直面せざるを得なくなった。
 
 
強まる投資家の力
 
投資家はそれが香港のコモディティ企業であれ、メキシコの建設会社であれ、企業に対し、財務情報の適切な開示を求める姿勢を強めている。それは政府に対しても同じことだ。
 
例えば、世界の投資家は何年も前から中国の経済指標の信頼性について疑問を抱いてきた。中国経済が鈍化するのに伴い、それはとりわけ深刻な問題となり、特に国内総生産(GDP)成長率や中国の銀行が抱える不良債権を巡る不安が高まっている。
 
政府の公式発表が事実であるか疑わしいため、投資家は中国経済に関する最悪のシナリオを織り込み始めている。それはコモディティ市場ばかりでなく、コモディティ価格に左右されやすい国や企業にも影響を及ぼしている。
 
 
引き続き警戒が必要
 
これらはいずれも、新興国が一夜にして問題を解決できることを意味するものではない。すべての国が同じくらい真剣に汚職撲滅に取り組んでいるわけでもない。しかし、取組みが遅れている国ですら、政治やビジネスのリーダーは動向を注視しており、そこから貴重な教訓を学び取っていると思われる。
 
投資家は、新興国市場に対しては常に慎重な姿勢をもって個別企業や個別の国を重視するアプローチを取ることが肝心である。だが、多くの新興国で進行している著しい文化的変化を見逃してはならない。
 
それは、短期的には、市場のボラティリティがさらに上昇し、不透明感が高まること、そして恐らく成長が鈍化することを意味する。しかし長期的に見れば、新興国のコーポレート・ガバナンスは改善する見通しだ。いつの日か、汚職撲滅に真剣に取り組んでいる国を売り込むのを止めることが、望ましい投資決断となる時がやってくるだろう。
 
 
 
 

 

 

 

当資料は、アライアンス・バーンスタイン・エル・ピーのCONTEXTブログを日本語訳したものです。オリジナルの英語版はこちら。

https://blog.abglobal.com/post/en/2015/10/can-emerging-markets-purge-corruption

 

 

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