外国人観光客が急増している。観光地や都心部にはかつてないほど海外からの旅行者が溢れ、爆買いマネーで潤う企業も増加中だ。高齢化で市場成熟が進む今後の日本は、外国の人々に来てもらいお金を使ってもらうことが経済活性化に不可欠。政府の観光立国政策は、着実に成功へ向けて前進していると言っていい。
だが、すべての日本国民が、押し寄せる外国人観光客を心の底から歓迎しているかと言えば話は別。表向きはそうでも、どこかで、街を埋め尽くす観光客に複雑な感情を抱いている人も少なくないのではないだろうか。
外国人観光客の多くは日本のルールを守っており、一部を除けば迷惑行為などもしていない。「人類は皆兄弟」でもある。それが分かっていながら、せっかく日本に来てくれた方々に、ネガティブな感情を抱くとすれば、レイシストの素養があると言われても仕方がない――。そう不安に思っている人もいるのでは。外国人観光客に対する日本人の複雑な心情を専門家に分析してもらった。
聞き手は鈴木信行
東洋大学社会学部教授、博士(人文科学)、臨床心理士。 専門は臨床心理学・人格心理学。産業分野を中心に認知行動療法の実践を手掛ける。著書に「夢と睡眠の心理学(風間書房)」、「図解 心理学が見る見るわかる(サンマーク出版)」などがある。
というわけで、先生、ずばり聞きます。外国人観光客の集団を見て、心のどこかで複雑な感情を抱いてしまうのは、レイシストの始まりなんでしょうか。
松田:そんなことはありません。簡単に説明すると、人間は、未知の集団に会った時、敵か味方か、とりあえず分類するようになっています。これは誰もが持つ「認知の構造」です。この時、「自分たちと異なる集団」だと認知すれば、当然、人は警戒します。特にその集団に関する情報が少ない場合、第一印象は、驚きとともに違和感とか拒絶感とかネガティブなものになる可能性が高いと言えるでしょう。
納得です。10万年とも15万年とも言われる現生人類の歴史で、そうした脳の「敵・味方識別機能」は生存の必須条件だったのでしょうね。「敵」と認識した集団にポジティブな感情を抱いたりしていたら、その個体は、あっと言う間に淘汰されたはずです。
異民族を警戒するのは生き物として当たり前
松田:その際、問題は、何を持って敵と味方に区別するかですが、その判断に大きな役割を果たすのが、日頃の生活の中でインプットされる情報から形作られる「ステレオタイプ」です。例えば、体育会系の集団に遭遇したとしましょう。日頃から体育会系の学生集団に、「礼儀正しい」とか「打たれ強い」といったポジティブなステレオタイプを持っている人は、その集団に所属する個人を「好意を持てる」と分類します。逆に、「自己主張が強そう」とか「粗暴なのでは」とかネガティブなステレオタイプを抱く集団に属する人は「好ましくない」と分類する。こういう視点で、外国人観光客に対する感情を考えると、どうなります?
ええと、外国人観光客の国民性などに対し普段から好意的なステレオタイプを持っている人は警戒心なんか沸かない。逆に、敵対的なステレオタイプを持っている人は、心穏やかと言うわけにはいかない。