【コラム】なぜ菊地直子に無罪判決が出たのか

 井上が「菊地直子は全て知っていた」と証言した。その証言を基に昨年6月、一審で有罪判決が言い渡された。法曹界の専門家がテレビに出演し「井上の証言が中心的な役割を果たした」「死刑囚がうそをつく理由はない」と語った。その判決が、二審で覆された。先月27日、東京高裁の大島隆明裁判長が、菊地直子に無罪判決を出したのだ。理由は何か。

 「時間がたつと記憶はぼやけるのに、井上証言は不自然なほど具体的。死刑囚の証言だからといって無条件に信じるには、合理的な疑いの余地が残る」

 要するに、菊地直子が無罪だという証拠があって釈放するわけではなく、有罪とする証拠がないので放免するということだった。それでも大島裁判長は、菊地直子に向かって「あなたが運んだ薬品で重大な犯罪が起こった。そのことを忘れないように」と厳しく念を押した。

 この判決が果たして正当なのか不当なのか、日本社会には賛否両論ある。しかし「有罪とする証拠がないかぎり、無罪と推定する」という原則そのものに文句をつける人はいない。その原則が崩れた世界は、もしかすると、オウム真理教がはびこる世界より恐ろしいかもしれない。

  菊地直子はその日、日本のメディアを通して「私が運んだ薬品で爆弾が作られ、何の罪もない方に被害をもたらした。裁判長のお言葉を重く受け止めたい」という謝罪文を発表した。検察が控訴するかどうかが、日本のメディアと大衆の次の関心事だ。

金秀恵(キム・スヘ)東京特派員
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