かつて東ドイツの陸上競技選手として活躍していたハイジ・クリーガーは、1997年に性転換手術を受けて女性から男性になった。最近撮影された彼の写真を見ると、鼻の下にひげを生やしたその姿は完全に男性だった。名前もアンドレアスに変更した。その一方で多くの不都合な事実も明らかになった。彼は1986年、欧州陸上競技選手権で女子砲丸投げの金メダリストになった。東ドイツ代表として出場し、男子並みの素晴らしい記録で優勝したが、実は彼は16歳の時からコーチに手渡されたビタミン剤を服用し続けていた。すると記録は急速に向上したものの、一方で体は少しずつ男性のように変化していった。彼が服用していたのはビタミン剤ではなく男性ホルモン剤だったのだ。その後彼は22歳の若さで引退し、最終的に本当の男性となってしまった。
戦後の一時期、東ドイツは米国やソ連と並ぶ世界のスポーツ強国だった。しかし後から明らかになったことだが、東ドイツは1万人以上の選手に数々の薬物を服用させることで、スポーツ強国の地位を築き上げていたのだ。まさに文字通りの「薬物メダル」ばかりだった。かつての冷戦の時代、スポーツは国の体制の優劣を競うイデオロギー対決の場でもあった。とりわけ社会主義諸国は才能のある選手を幼い頃から発掘し、過酷なトレーニングをやらせて金メダルを獲得させる仕組みを築き上げていた。薬物によってパフォーマンスを向上させるドーピングは、社会主義諸国にとってはメダル獲得に非常に効果的だったが、一方であまりにも非人間的な手段だった。
世界反ドーピング機関(WADA)は一昨日、ロシアで組織的かつ非常に大規模な形でドーピングが行われていた事実を公表した。WADAは2012年のロンドン・オリンピック陸上競技の女子800メートルで優勝したサビノワ選手をはじめとして、ロシアの5人の陸上選手と5人のコーチに永久資格停止の処分を下すよう求めた。WADAはさらにロシアで国が関与したドーピングは陸上競技だけでなく、20以上の種目でも同じように行われていた可能性も同時に指摘。昨年のソチ冬季オリンピックについてもあらためて検討する必要性があるとも言及した。