黒田総裁は金利キャップ制への転換が不可避-フェルドマン氏
2015/11/10 11:06 JST
(ブルームバーグ):日本銀行の大規模な国債購入は来秋にも持続不能に陥る-。モルガン・スタンレーMUFG証券のチーフエコノミスト、ロバート・フェルドマン氏は、黒田東彦総裁が長期金利を特定水準以下に抑える金利キャップ制に移行せざるを得ないと予想する。
フェルドマン氏によると、民間金融機関の国債保有残高は推計で、金融取引の担保などに必要な限度額を60兆-80兆円上回る程度。民間からの国債供給に限りがある中、政府が新規財源債を年30兆-40兆円発行したとしても、「来秋から再来年の春までに、オペの札割れだけでなく、大量購入自体がもうできなくなってしまう」と、6日のインタビューで語った。
日銀は長期国債の残高を年80兆円増やす量的緩和を進めている。フェルドマン氏は、国債の巨額購入による「量的緩和ができなくなるので、利回りの緩和に移る必要がある。限界を迎える前に、いやが応でもやらないといけない」とみている。例えば、10年物国債利回りで0.5%といった特定の水準以下に金利を抑えるため、必要なだけ国債を買い入れる金利キャップ制の導入が避けられないとし、日銀は今後12カ月のうちにしっかり議論する必要があると言う。
国債市場の需給逼迫(ひっぱく)を背景に、残存期間5年以下の利回りは1月に全てマイナス圏に突入した。足元でも金融機関が日銀当座預金に超過準備を積めば得られる利息(付利)を下回っている。半面、長期や超長期の利回りは、追加緩和観測の後退と日銀の政策据え置きを受け、小幅ながら上振れている。新発10年物国債の340回債利回りは0.34%前後、30年物の48回債は1.39%前後と、1カ月ぶりの水準で推移している。
日銀は10月30日に公表した「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、15年度と16年度の成長率と消費者物価の見通しを引き下げたほか、2%の物価目標に到達する時期を「16年度前半ごろ」から「16年度後半ごろ」に後ずれさせた。
総務省が発表している全国消費者物価指数(生鮮食品を除くコアCPI)は9月に原油安を背景に前年比0.1%下落と2カ月連続でマイナスの伸びとなっている。一方、日銀が独自に試算する生鮮食品とエネルギーを除くCPIは1.2%上昇と、14年2月の直近ピーク0.9%上昇を上回った。
フェルドマン氏は「コアCPIは今の経済事情に合っていない。よほどの事がない限り、追加緩和はずっとない」と指摘。日銀の新型コアCPIは16年末ごろに2%に達するが、17年4月の「消費増税と日銀のテーパリングが重なると問題だ」と述べる。黒田総裁が14年の消費増税後に景気低迷が長引いたので「羹(あつもの)に懲りているだろう」と言い、異次元緩和は長期化して限界に達するとみている。
黒田総裁は10月30日の記者会見で「物価の基調は着実に改善」しており、「原油価格のマイナスの影響が剥落する来年度の後半ごろには2%程度に達する可能性が高い」と述べた。国債市場の需給関係に関しては、「今の時点で買い入れに限界がすぐ来る」といった状況ではないと語った。先週には、国債買い入れはこれまで大きな問題に直面しておらず、物価目標の達成・維持に必要な時点まで続けられるとした一方、未来永劫(えいごう)続けることはできないとの認識も示した。
SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミストは、日銀の国債買い入れで「需給はすでに逼迫しており、金利には低下圧力が掛かり続けていく」と予想。将来的に「限界を迎えた場合、異次元緩和の軌道修正策として金利キャップ制の導入はあり得る」と言う。「量で金利をコントロールするか、水準自体で金利を抑制するかの違いだ」と言い、「買い入れ量にはこだわらないことになる」と説明した。
フィリップス曲線フェルドマン氏が日銀の2%目標達成を見込む根拠は、失業率の低下が賃金を押し上げて物価上昇をもたらすとする「フィリップス曲線」の分析にある。日本の失業率は3%台前半と過去10年の平均4%台前半を下回って推移。国内総生産(GDP)統計の雇用者報酬を雇用者数と労働時間で割った時給は足元で前年比1.5%と、約35年間にわたる両者の関係に沿う「美しい結果」だと言う。
「失業率が2.5%に下がれば、時給は4.7%上昇する。高齢化で労働者数が減っているため、失業率を2.5%に下げるのは楽だ」。時給が4.7%上がると、新型コアCPIは「タイムラグなしで2.4%上昇する関係だ」とフェルドマン氏は指摘する。近い将来に各数値が厳密に的中するかはともかく「方向性は明らかだ。雇用者報酬の動向が目下、最大の注目点だ」と語る。
フェルドマン氏によると、過去の実績では足元の時給1.5%上昇に対応する新型コアCPIの上昇率は0.5%のはずだが、実際には1.2%上がった。時給と物価の関係が「従来よりタイトな方向にシフトしている可能性がある」と述べ、新型コアCPIが「2%に上がるのに必要な失業率の低下幅と時給の伸びは、もうあまり大きくないのではないか」との見方をしている。
内閣府が公表した雇用者報酬は4-6月期に実質で0.2%減少した。16日公表の7-9月期のGDP速報値について市場関係者は、実質GDPが前期比年率0.3%減と2四半期連続のマイナス成長になったと予想している。10年物の固定利付国債と物価連動債の利回り格差(BEI)が示す予想インフレ率は0.76%前後と9カ月ぶりの低水準で推移している。
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更新日時: 2015/11/10 11:06 JST