2015年9月5日15時56分
来年度から中学校で使う教科書が8月末までに各地で決まった。社会科では「新しい歴史教科書をつくる会」の流れをくむ育鵬社版について、市民団体が採択反対を呼びかけるなど注目されていた。新たに大阪市などで選ばれた結果、全国で同社版を使う生徒の割合はこれまでの約4%から微増しそうだ。教員らとは違う評価で教育委員会が選んだ例もあった。
「文化・伝統が多く取り上げられている」「人物にスポットが当てられ、分かりやすい」。8月5日、大阪市教委の会合。委員6人のうち4人が育鵬社版を支持し、歴史と公民の教科書に決まった。産経新聞で東京本社社会部長などを歴任した高尾元久氏や、山本晋次教育長らが支持した。
横浜市も同日、4年前に続いて育鵬社版を採択。全国の人口上位2市が使うことになった。
小中学校の教科書は4年に1回選ばれ、公立校の場合、設置した自治体の教委に採択権限がある。育鵬社版を選んだのは前回の11都府県23教委から14都府県31教委に増え、15教委が初採択。同社の担当者は「全国シェアは歴史・公民とも6%前後だろう」と話す。
特に大阪府内では4市が初採択。その一つ、泉佐野市では、教員らでつくる審議会が育鵬社版を他社版より低く評価したが、教委の多数決で「逆転」。「生徒に誇りを持たせる内容」などの理由で支持された。
教科書採択は、教員や識者らでつくる審議会や委員会が各社の教科書を読み比べ、その事前調査の結果を参考に教委が選ぶ形が一般的だ。だが、泉佐野市のように事前調査の評価と異なる判断で育鵬社版を選んだ教委は、他にもあった。
松山市では、市民やPTAの代表も加わった「採択委員会」が他社版を評価していたが、教委の無記名投票で決定。傍聴した女性は「教育現場や市民の声を無視している」と憤った。
宮城県では県立中学2校のうち1校が他社版を高く評価していたが、2校とも育鵬社版に。横浜市も、校長らの審議会が公民は他社版を高く評価していた。市教委の事務担当者は「審議会の評価は尊重するが、『うのみにするな』という趣旨の通知が来ている」と説明。文部科学省は4月、事前調査の結果について「拘束力があるような取り扱いはしない」などと全国の教委に通知していた。
一方、前回に東京都内の区で唯一、育鵬社版を採択していた大田区は他社版に変えた。区教委によると、区立中学から事前に寄せられた意見の多くが育鵬社版に批判的だったという。
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