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【社会】東京パラ五輪 秋にずらして 体温調節機能 失った選手切実
東京パラリンピックは五年後の八月二十五日に開幕する。厳しい残暑も予想されるが、車いすを使う選手の中には首の骨の中の神経、頸(けい)髄の損傷などで体温調節機能を失い、発汗のできない人が少なくない。選手らは「開催日程を遅らせられないか」「屋外競技は命懸けになる」と切実。同様の障害のある観客のケアも必要で、根本的な暑さ対策を望む声が強い。 (杉戸祐子、北爪三記) 弓に矢をつがえて引きながら、視界が白く薄れていく感覚に襲われた。七月中旬、炎天下のさいたま市で開かれたアーチェリーの大会。上肢にも障害のある車いす選手が出場するW1クラスの日本代表、斎藤紳一さん(54)=千葉県松戸市=は、熱中症のような状態に陥って途中棄権した。 「意識が遠のき、頭に血が上らなくなった」。この日、正午の気温は三一・三度。午後には三三・四度まで上がった。 斎藤さんは二十二年前、軽乗用車を運転中にトラックに追突されて頸髄を損傷。車いす生活となり、体温調節機能も失った。汗がかけないため、暑いところに長時間いると体内に熱がこもってしまう。 アーチェリーは屋外競技。夏場は霧吹きで体に水を掛けたり、氷で首や脇、脚の付け根を冷やし、体温上昇を抑える。公式戦では矢を射る時以外は日傘をかざしてもらう。「真夏の屋外に長時間いるのは不可能。どれほど体調が完璧でも命懸けになる」 二〇一二年のロンドン大会に出場し、来年のリオデジャネイロ大会、五年後の東京大会も目指している。「地元開催となれば、頭から氷水をかぶってでも戦うつもりだが、秋に開催してほしい。無理でも、日程を一週間でも十日でも後にずらしてほしい」と本音を漏らす。 車いすラグビーは室内競技だが、激しいスポーツ。日本代表で頸髄損傷の岸光太郎さん(43)=埼玉県熊谷市=は、所属チームの練習場に扇風機を置き、霧吹きで体に水を掛けて体温を下げる。「パラ五輪会場は室温を低く保ち、扇風機や氷を配備してほしい」 日本パラリンピック委員会医・科学・情報サポート事業のスタッフとして、岸さんらをサポートする首都大学東京健康福祉学部助教で理学療法士の信太(しだ)奈美さん(41)は「体温調節ができないのは頸髄損傷のほか上部胸髄損傷の人も含まれ、陸上やテニスなどの選手もいる」と指摘。「外国から訪れた人には日本特有の湿気、蒸し暑さも心配だ」と懸念する。 ◆「観戦の障害者もケアを」パラリンピックでは、五輪以上に多くのバリアフリー席が競技会場に設けられる見通しで、多数の車いす利用者が観戦に訪れると予想される。暑さ対策について、東京大会の組織委員会は「過去の大会を調べたり、競技団体と調整したりして、具体的なプランを検討する」とするが、観客への手厚いケアが必要だ。 五輪は、国際オリンピック委員会が「七月十五日〜八月三十一日」の期間内の開催を求め、パラリンピックも「五輪閉幕に引き続き、約二週間以内に開催」とされている。他の時期だと、サッカーやアメリカンフットボールなどプロスポーツのシーズンと重なり、テレビの放映権に影響が出るためだ。 東京大会の場合、パラ五輪は五輪の十六日後の八月二十五日から九月六日まで。立候補ファイルでは「五輪から連続した六十日間のひとつの祭典として実施することが基本的なコンセプト」とされている。 建築デザイナーで、頸髄損傷で車いすを使っている丹羽太一さん(47)=東京都新宿区=は「炎天下で観戦する障害者が心配だ」と指摘。「バリアフリー席に近い場所に、エアコンが効いて水が飲めるような待避所を設けるなど、対策を練るべきだ」と話している。 PR情報
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