静岡県西伊豆町で19日に発生した7人が死傷した感電事故で、獣害を防ぐ電気柵を設置した男性は、いくつかの部品を組み合わせて柵を自作していたことが地元警察署の調べで分かった。専用品なら幾重にも施されている安全対策が不十分だった可能性もある。事故を通して浮かび上がってきた問題点をまとめた。
事故が起きた同町の現場では、(1)電気柵の設置を知らせる表示・看板がない(2)感電の恐れがある時、自動的に回路を遮断する「漏電遮断器」が設置されていない(3)電流を一瞬だけ断続的に流す「電気柵電源装置」がなく継続して電流が流れ続けていた――など一般的な電気柵とは全く異なった使い方がされていた。

さらに設置者は「普段は夜間だけ通電している」と話していたが、事故が発生した19日午後4時30分ごろ、なぜスイッチが入っていたかは不明のままだ。周辺で家庭菜園に電気柵を設置している男性(54)は「鹿などが出るのは夜間で、自分の畑では一晩おきにスイッチを入れ、朝切るようにしている」と話す。
電源がある納屋から柵が設置されていたアジサイ花壇までの距離は数十メートル。途中、川に架かる橋にコードを渡して電気柵に電気を流していた。
町によると、花壇がある場所は、市町村長が指定し管理する「準用河川」の河川敷。電気柵の技術基準を定めた電気事業法に関連する省令によると、電気柵は田畑や牧場などで野獣の侵入や家畜の脱出を防止するために設置できるとされ、町は「河川敷はこの省令の範囲に当たらない」(産業建設課)とみる。設置者が、町の許可を得ていない場合は、不法占用となる可能性もあるという。地元警察は現在も事故の原因を調べている。
事故を受け、電気柵を販売するメーカーには、農家やJAから「この設置方法で大丈夫か」「電気柵で感電するのではないか」という問い合わせが相次いでいる。農家が電気柵全般に対して不安を募らせているためだ。
国内の電気柵メーカー8社でつくる「日本電気さく協議会」の宮脇豊会長は「通常の電気柵であれば、今回の事故のように電気が流れ続けることは絶対にあり得ない。事故現場の柵は『通電柵』であり、電気柵とは呼べない」と憤慨する。現在、所管の経済産業省と事故を起こした柵を「電気柵」と呼ばないよう、調整しているという。
・適正利用は心配なし
電気柵電源装置には電池式、バッテリー式、太陽光を取り入れるソーラーパネルなどがあるが、それらを通さずに家庭用電源から直接電気を流した場合は電気事業法違反となる=イラスト。さらに今回は安全装置となるはずの漏電遮断器すらなく、事故につながったとみられる。
同協議会によると現在、全国で推計70万台の電気柵が設置されている。日本で電気柵を使い始めて60年以上の歴史があるが、これまでに適正な電気柵で感電死した事故は一件もないという。
「電気柵は心理的な負荷で野生動物を撃退する。設置基準でも、出力電流が制限されている電気柵電源装置と定めており、人が触れてもけがをすることさえ考えられない。電気柵は安全だ。農家は不安にならないでほしい」と呼び掛ける。(尾原浩子、立石寧彦)