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「俺の発言がなにを踏まえているかわかる奴がきっといる」それが和歌だ(あいつのツイートじゃないか)

2015年7月24日 10時00分

ライター情報:千野帽子

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帯がカワイイ! 王朝和歌に入門して恋をはじめよう
池澤夏樹=個人編集《日本文学全集》02『口訳万葉集 百人一首 新々百人一首』

池澤夏樹=個人編集《日本文学全集》(河出書房新社)の第1期第8回配本は、第02巻『口訳万葉集 百人一首 新々百人一首』。和歌だ。
池澤夏樹=個人編集《日本文学全集》02『口訳万葉集 百人一首 新々百人一首』。解題=岡野弘彦+渡部泰明、月報=穂村弘+今日マチ子、帯作品=mina perhonen(minaのaはウムラウトつき)。歌人・岡野弘彦は釈迢空(折口信夫)の弟子。

帯がカワイイ! と思ったらやっぱりmina perhonenのデザインワークだった(minaのaはウムラウトつき)。
今巻の収録作は

『口訳万葉集』(1917)(折口信夫訳、上巻下巻Kindle)より203首(《現代語訳 日本の古典》第2巻『万葉集』の岡野弘彦の註を加える)
・藤原定家撰『百人一首』小池昌代新訳・釈
・丸谷才一『新々百人一首』(1999)(上巻下巻)より20首

古代人が降りてきた


『万葉集』は8世紀に編纂された、全20巻からなる歌集だ。
収録作の作者は天皇やお姫さまから無名の防人(さきもり)まで、ヴァリエーションに富んでいる。日本文学の中心が京都になる前の貴重な資料でもある。
折口信夫はすでに、本全集第14巻(レヴューはこちら→「女のいう通りに、女の喜ぶようにしてやった」宮本常一に学ぶ「村の恋愛工学」)に『死者の書』などの作品が収録されている。
池澤夏樹=個人編集《日本文学全集》14『南方熊楠 柳田國男 折口信夫 宮本常一』河出書房新社。解題・年譜=鶴見太郎、月報=恩田陸+坂口恭平、帯装画=高木紗恵子。

『口訳万葉集』はその折口の、まだ29歳で無名だったころの仕事。本巻での池澤夏樹の紹介文にもあるとおり、朝9時から晩10時まで折口が口述するのを、3人の友人が交替で筆記すること3か月で、約4,500首を訳しおろしたという。

休日なし換算で1日平均50首、食事休憩を1時間と見積もっても時速4首から5首、1首につき10-15分だ。『万葉集』には短歌だけでなく長い歌もたくさんはいっていることを考えると、ぞっとするような集中力だ。
しかも、辞書や参考書をいっさい使わなかったという。古代人が「降りて」あるいは「憑いて」いた状態だったに違いない。

池澤選に漏れた不倫ソングを敢えてご紹介


僕は『口訳万葉集』は中公文庫版『折口信夫全集』で読んだ。
『折口信夫全集』第4巻『口訳万葉集』上巻(中公文庫)。1970年代から80年代前半の中公文庫は、自社出版物の文庫化のばあい、もとの版面を画像としてそのまま縮小していることがある。フランスのペーパーバックみたいに親本と同じ頁構成となっていて便利だが、漢字だらけだと目に優しくはない。

本書には203首が選ばれているが、今回は池澤さんが選ばなかった歌を敢えてここで紹介したい。池澤日本文学全集に倣って表記は新字、訳を新かな、ルビをひらがなとする(折口はルビをカタカナでつけるのだ)。「巻第十四」の3472番。

人妻と、何故か其〔そ〕を言はむ。然〔しか〕らばか、隣りの衣〔きぬ〕の借りて着はなも

〔折口訳〕人妻だと言うので、怎〔ど〕うして、それを触ってはいけない、と言う理窟があろうか。

ライター情報

千野帽子

文筆家。著書『読まず嫌い。』(角川書店)『文藝ガーリッシュ』(河出書房新社)『俳句いきなり入門』(NHK出版新書)など。公開句会「東京マッハ」司会。

URL:Twitter:@chinoboshka

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