2015年7月13日 「維権」弁護士一斉摘発と国家安全法

 7月9~12日、孫春蘭中央政治局委員、中央統一戦線工作部長が青海省黄南チベット族自治州、甘粛省甘南チベット族自治州、四川省アバ・チベット族自治州を調研で訪れ、次のように述べた。
 ―「習近平総書記の一連の重要講話と中央統一戦線工作会議の精神を深く学習、貫徹し、法に基づきチベットを統治し、人民を豊かにしチベットを振興し、長期的なチベット建設という原則を堅持し、党の統一戦線工作の方針を真剣に実現し、チベット地域の発展、安定のために最大限人心を集め、力を集めなければならない」
 最近、劉延東中央政治局委員、副総理が河北省張家口を調研で訪れ、次のように述べた。
 ―「教育、衛生、文化などの資源を農村、遠隔地、貧困地域に傾斜させ、県級公立医院綜合改革を全面的に推進し、貧困地域の人材育成と医療衛生サービス水準を高め、貧困地域の経済の質的向上、効率向上のレベルアップと基本的公共サービスの均等化を促進しなければならない」

 孫春蘭が6月のチベット自治区の調研に続き、周辺のチベット族自治州を調研で訪れた。今回は「分裂」への言及はない。しかし「法に基づきチベットを統治」とか、「長期的なチベット建設」といったチベット族の立場に立っていない政策方針にはやはり違和感がある。
 劉延東は河北省で貧困問題を視察した。習近平が貴州省で扶貧問題解決に力を入れることを提起し、それに沿った視察である。
 そろそろ北戴河会議に向けた13次5カ年規劃や下半期の経済方針など経済論議が展開される時期。習近平の貴州省での発言以来、扶貧がホットイシューになっている。13次5カ年規劃のキーポイントの1つになるのだろう。しかし、まだ経済論議は展開され始めていない。国務院上層部の地方調研がまだ終わっていないのでまだ少し時期が早すぎるのか。それとも株価の下落問題でそれどころではないのか。

 「維権」弁護士取り締まりについての報道はない。「維権」弁護士の活動なんて、今に始まったことではないし、今特段大きな事件が起きているわけではない。それなのになぜこの時期に一斉取り締まりをするのか。実は解せないところがあった。株価問題の政治化を警戒しての先取り的な摘発かとも思った。
 これに対し、米国政府も指摘しているように、先日「国家安全法」が採択されたことが関連しているという見方がある。その適用のデモンストレーションか。今日の11面に中国社会科学院法学研究所教授の李忠の「国家安全法の6つの特徴」という論説が掲載されている。いくらか掲載の不自然さがあるので、「国家安全法」の採択との関連を示唆していると言えなくもない。
 李忠は次の6つの特徴を挙げている。
 (1)総体的国家安全観を指導思想とすることを確立
 (2)人民の安全を主旨とすることを突出させて強調
 (3)初めて国家安全を定義:「第2条、国家安全は国家の政権、主権、統一、領土保全、人民の福祉、経済社会の持続可能な発展、国家のその他の重大な利益が相対的に危険のない、内外の脅威を受けない状態を指す」 
 ―「国家のその他の重大な利益」の表現を使用して、適応性、融通性を体現し、国家安全のたえず発展、変化の規律に符合させた
 (4)国家安全指導体制を確立:「第4条、中国共産党の国家安全工作に対する指導を堅持し、集中統一した高い効率の権威的な国家安全指導体制を構築する」
 (5)初めてネット空間の主権という概念を提起
 (6)初めて国家安全教育日を規定
 この6つのうち、「維権」弁護士の一斉取り締まりは、「人民の安全」を脅かすのか、「国家の政権」を脅かすのか。
 李忠も指摘するように、国家安全法の「国家のその他の重大な利益」の表現は確かに重要だ。「適応性、融通性」と言えば聞こえもいいが、要は共産党が解釈権を持っていると言うことである。あらゆることを「国家のその他の重大な利益」と定義して取り締まりの対象とすることができる。よく考えられた法律だ。