2015年07月14日

レトロゲーム万里を往く その125 バルーンファイト


ファミコンで「ドッグファイト」を表現した、最初のゲームなんじゃないか、と私は思うのです。




1983年〜1985年あたりのファミコン市場は、一言で言ってしまうと「任天堂と愉快な仲間たち」が形成していました。ファミコン最初期の任天堂タイトルが、一から十まで一作も漏らさず佳作・名作揃いだったこと。それ抜きで、後のファミコンの隆盛はありませんでした。

前にも書いたことがありますが、1984年後期から1985年初めくらいのファミコンゲーム発売タイトルをざっと見た時、「当時の任天堂のスタッフが全員妖怪だった」という以外の結論を導出することは極めて困難です。

1984年11月2日 F1レース、同11月2日4人打ち麻雀、11月14日アーバンチャンピオン、11月22日クルクルランド、11月30日エキサイトバイク、85年に入って1月22日バルーンファイト、1月30日アイスクライマー。一本のゲームが数人、場合によっては一人で開発される時代だった、ということを考慮に入れても、一体どんな加速装置を使えばこうなるのかとしか言えない凄まじい過密スケジュールであることは議論を俟たないでしょう。当時の任天堂にはドラえもんでも実装されていたんでしょうか。


この傍ら開発がすすめられていたと考えられる、「ファミリーベーシックV3」は2月21日に発売されています。その後の、4月9日サッカー、6月18日レッキングクルー、6月21日スパルタンX、というスケジュールも今から見れば十二分に頭おかしいのですが、それでも1984年11月の妖怪スケジュールに比べれば、まだなんぼか納得感があると言っていいと思います。


強調しておきたいのは、ここで挙げたタイトルの中に、「面白くないゲーム」というものが一本たりとも含まれていないことです。F1レースは当時の基準からすれば常識外れのド迫力でしたし、4人打ち麻雀はお父さんたちの腰をファミコン前に落ち着けるのに一役買いました。アーバンチャンピオンは「対戦格闘」というもののルーツの一端を担っていますし、クルクルランドの宝探し感は鮮烈でした。「横スクロールジャンプアクション」に近いゲームを実現したエキサイトバイクは爽快感に溢れていましたし、アイスクライマーのポポとナナのジャンプ力は「お前らなんでオリンピック出ないの?」というレベルでした。



そして、そんな中に、佳作軍団の中でもひときわ輝く一作として、バルーンファイトがありました。



バルーンファイト。アクションゲーム。1985年1月22日、今日から数えて11131日前に、任天堂からファミコンで発売。元々はアタリの「ジャウスト」を移植しようとしていたところ、権利関係の問題でお蔵入りになり、坂本賀勇氏、横井軍平氏、岩田聡氏、田中宏和氏の4人で大幅なアレンジを加えて本作が誕生した、という逸話が知られています。私はファミコン版、アーケード版、それぞれの「ジャウスト」も遊んだことがあるのですが、後述する複数の理由から、「元ネタを遥かに超えたアレンジ作」になっていると言っていいのではないかと私は思います。



さて、ゲームの話をしましょう。


・何故なら、そこに「Aボタン」と「Bボタン」があったから。


ゲームシステムというのは、開発者の思想です。とりわけ「操作系」というのは、「このゲームをどう遊んで欲しいか」という、開発者の思想が如実に現れる部分です。

バルーンファイトに現れている開発者の思想というのは、私が考える限り、多分「メリハリ」だと思います。


キーワードは二つあります。「操作のメリハリ」と、「上下のメリハリ」


上記動画を見ていただければ一目瞭然ではありますが、バルーンファイトは、空を飛んで敵の風船を割っていくゲームです。プレイヤーは、風船を担いだ主人公キャラクターを縦横無尽に操って、あちこちを飛び回る敵の上をとり、敵の風船を割っていきます。


元ねたの「ジャウスト」と違って、バルーンファイトには二つのボタン操作があります。

Aボタンが、ゆっくりとしたパタパタ羽ばたき。Aボタンを押すと、プレイヤーは一瞬手を動かしてちょっとだけ浮き上がり、その後すぐ下降を始めます。

Bボタンが、高速のバタバタ羽ばたき。Bボタンを押していると、プレイヤーは水面下の白鳥かよって勢いで物凄くバタバタと手を動かし、上方向に高速のベクトルを持ちます。


まず、この二つのボタンが生み出している「操作のメリハリ」こそが、バルーンファイトというゲームのひとつの重要なエッセンスなのです。


バルーンファイトは、要所要所でかなり細かい操作を必要とされます。細かい地形を交わしたりとか。雷と敵に挟まれたところから脱出したりとか。バルーントリップでは何をかいわんやです。

一方、バルーンファイトでは要所要所で非常にすばやい動きを必要とされます。高い位置を急いで確保して、敵の頭上を取ったりだとか。逆に、敵に頭上をとられた場面から急いで逃げ出したりであるとか。


この時、単に「飛ぶボタンを押したり離したりして調節してね!」ではなく、「AボタンとBボタンを使い分けて、上手いことプレイヤーをコントロールしてね!」というのが、ひっじょーーーーーに明確な「プレイヤーへのメッセージ」でした。

バルーンファイトのキャラクターは、ふわふわとした非常に独特な浮遊感をプレイヤーに提供してくれます。羽ばたけばふわっと上に上がるし、ボタンを離せばすーっと下に落ちていく。その浮遊感に、上記の「メリハリのきいたボタン操作」が合わさった時、何が起きたかというと。


バルーンファイトは、プレイヤーに「俺上手くなってる感」を物凄いクオリティで提供してくれたのです。


AボタンとBボタンの使い分け。微妙な速度操作と浮遊感の制御に慣れた時、プレイヤーは縦横無尽に画面内を駆け回る自分の操作キャラクターの姿に気がつきます。次から次へと、思い通りにばちんばちん敵の風船を割っていく姿は、まさにエースパイロット。2P対戦(本来は協力プレイなわけですが)という要素も合わさり、戦闘機ごっこもかくや、といわんばかりの空中戦がそこにはありました。

この、「ボタンを使い分けて、上手く操作してる感」というものを味わうには、ボタン一つではそれなりの高さの壁があります。ボタン二つだからこそ実現できた楽しさが、そこにはあったのです。


一方。バルーンファイトには、「上下のメリハリ」というものもありました。


バルーンファイトの敵のアルゴリズムはひっじょーーによく出来ていて、三段階のレベルに分かれた敵キャラクターが、それぞれ実に自由に画面を飛び回ります。レベル1の敵キャラはまだもたもたとしているのですが、レベル3ともなると非常にすばやい動きでこちらの上空をとろうとしてきます。

敵に上を取られた状況というのは非常に危険なので、プレイヤーは出来る限り画面の上方を確保しなくてはいけません。ですが、Bボタンを押しっぱなしだと画面の天井でがくんがくん跳ね返されて却って危険ですし、雷が飛んでくる危険もあります。

そこで、プレイヤーは様々な手段を使って、「自分の上」を守りつつ、「自分の下」に敵を位置づけようとするわけです。例えば、地形を使って敵をおびきよせようとしたり、であるとか。例えば、Aボタンを駆使してはじかれない程度に天井に張り付いたりであるとか。

「ボタンを離すとどんどん下に落ちる」という要素もあり、Aボタン、Bボタンと密接に結びついた「上下の取り合い」は、擬似的な「敵との駆け引き」とでもいうべき要素をバルーンファイトに導入しました。2P対戦ともなれば一層その要素が顕著になり、プレイヤーは「一人のエースパイロット」として、対戦相手と熾烈な格闘戦を繰り広げることになります。私が、バルーンファイトを「ファミコン史上初のドッグファイト」と考える所以です。


AボタンとBボタン。一見ほんの小さなことですが、絶妙な操作感とあいまって、この要素がバルーンファイトを名作にしている、と私は思います。



・お魚さんの超絶食欲について。

敵をパラシュートのまま放置して海に落っことす、という遊びは当時誰しもがやったのではないかと思うわけですが。

上記、敵とのドッグファイトをメインとするAモード・Bモードの他に、バルーンファイトにはもう一つ遊び方がありました。そう、「Cモード」こと「バルーントリップ」です。



「バルーントリップ」では、敵キャラクターが出てきません。軽快なBGMの中、プレイヤーは一面の雷雲をもぐりぬけて、風船を割りつつひたすら進み続けることになります。固定画面型アクションゲームであるバルーンファイトで、唯一画面がスクロールするゲームモードです。

こちらも、上記の「AボタンとBボタン」を縦横無尽に使い分けながら、時にはすばやく、時には繊細な操作で障害物を交わしていくのがメインのゲームなわけですが、プレイヤーは基本雷に接触するか海に落っこちるか以外にゲームを終える選択肢がないわけで、冷静に考えるとすっげえ悲壮な状況だと思います。未帰還ミッションですよ未帰還ミッション。気分はエリア88のファイナルフライト。かなしい。


これ以外にも、プレイヤーが海すれすれを飛んでいるとたまに魚がぐわっと下から出てくるところ、ギリギリのところで捕食を免れる「川のぬし釣り」であるとか、パラシュートの敵に基本とどめをさしてはならず、全て海におっことして魚に食べさせなくてはいけない「アクアノートの休日」であるとか、通のバルーンファイターの中では様々な特殊プレイ形態が認定されています。嘘ですが。「プレイヤーの工夫次第で色々な遊び方が出来る」というのも、バルーンファイトというゲームの懐の深さを示す一端であるといえるでしょう。


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皆さんよくご存知の通り。

「バルーンファイト」が世に送り出されてから30年後の今年、バルーンファイトを作った一人の巨匠が世を去りました。

バルーンファイトを遊びながら、開発者の意図をあれこれ妄想する程度しか能がない私ではありますが、岩田氏が作った数々のゲームを、またそれ以外の膨大なゲームを、これからも変わらず遊び続けることで、ささやかな哀悼の意に換えたい、と、そんな風に考えるわけなのです。




以下は関連エントリー。
今まで一度も「ファミコン」を遊んだことがない人に、今だからこそ薦める10作
以下は関連してるんだかしてないんだかよく分からないエントリー。
撃墜王の一夜
posted by しんざき at 00:10 | Comment(1) | TrackBack(0) | レトロゲーム | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
バルーンファイトももちろん好きですが、
私にとっての岩田ゲーはゴルフですね。
全てのゴルフゲームの祖にして今遊んでも全く遜色ない出来。素晴らしいゲームでした。
Posted by at 2015年07月14日 06:50
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