Updated: Tokyo  2015/07/14 09:28  |  New York  2015/07/13 20:28  |  London  2015/07/14 01:28
 

新生「村上ファンド」、企業に物言う父娘鷹-世彰氏も株売買

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  (ブルームバーグ):2000年代に物言う株主として市場に風雲を巻き起こした「村上ファンド」。経営者に企業価値の向上を直接迫る手法は道半ばで挫折した。時代は流れ、今や政府主導で企業の経営効率改善の動きが進む中、村上世彰氏の思いは長女の絢氏に受け継がれている。

村上絢氏(27)が最高経営責任者(CEO)を務める投資会社C&I Holdingsは6月、液晶部材や車載電装品などを扱う電子部品商社の黒田電気 に対し臨時株主総会招集の請求を行い、世彰氏ら4人の社外取締役の選任を求めた。同社の業績面の実績を評価する一方、資本政策や企業の合併・買収(M&A)を活用した成長戦略という点では改善の余地があるとみているためだ。

絢氏は10日のブルームバーグのインタビューで、投資対象について「割安な銘柄。内部留保が多く、それを活用していない会社。経営能力は高いが、コーポレートガバナンス(企業統治)がしっかり効いていない会社」と指摘。その上で、「われわれは、より株主価値を上げるということに対し第一人者。本来なら、われわれが株主になったとき、ただでアドバイスがもらえると喜んでもらいたい」と述べた。

黒田電株主の5割近くは外国人投資家 だ。「少数株主にもアプローチし、賛同の意見をもらっている」と絢氏。C&Iは現在、関係会社や世彰氏らの保有分も合わせ発行済み株式総数のおよそ15%に当たる黒田電株を保有している。創業家で元社長の黒田善孝氏は文書で、C&Iが提示した社外取締役候補について「黒田電気の変わらない状況を打破し、より強くて良い会社に変えていくであろうと信じるに至った」と賛成する意向を示した。

一方、黒田電は10日、16年3月期の年間配当計画を1株36円から94円に引き上げると発表。今期から18年3月期までの株主還元方針も示し、純利益の50%相当分に対し配当性向を30%とし、残りの50%相当分は経済情勢や資金需要を勘案しつつ、配当性向を50-100%の間で決めるとした。8月28日に臨時株主総会を開催し、C&Iらの社外取締役選任議案に反対する方針も同時に表明した。

持丸守業務執行役員は、「十分ガバナンスは効いていて、これ以上は不要。追加選任は不要。それ以上でもそれ以下でもない」とブルームバーグの電話取材で述べた。

村上家資産で運用、最終決定は世彰氏も

C&Iは、中堅・中小企業支援を手掛けていた旧ベンチャー・リンクが前身で、12年3月に民事再生法の適用申請で経営破たんした後、村上氏らが引き継ぎ、投資会社として再出発した。運用するのは、かつて世彰氏が設立したM&Aコンサルティングのように他者から資金を預かるのではなく、「全て個人資産。村上家の資金でやっている」と絢氏は説明。銘柄選定は世彰氏、絢氏、福島啓修副社長ら5人で行い、最終決定には世彰氏も関わる。

「父のやっていたファンド時代は顧客がいて、説明責任があり、リターンを出さないといけなかった。今はわれわれでリスクを取り、決定できる」と絢氏は話す。大量保有報告書を提出している企業は現在5社ほどで、保有比率5%以下では30社程度に投資。絢氏によれば、世彰氏がトレーディングをしていることが多く、C&Iグループとして黒田電以外にも自動車部品メーカーのヨロズ に配当性向の向上を求めた。

絢氏がCEOに就いたのは6月。「父の考えに強い共感を持っている。日本のマーケットが遅れているとずっと思っていて、高校生から業界に入りたいという思いがあった」と言う。慶応義塾大学卒業後はモルガン・スタンレーMUFG証券に勤務、2年半前にC&Iの系列会社に入り、シンガポールに住む世彰氏から哲学を学んだ。「投資家として能力はすごく高い。この世界の第一人者」というのが娘の父親評だ。

早過ぎた父、時代が追いつく

世彰氏は1983年に通商産業省(現経済産業省)に入り、退官後に投資会社を設立。阪神電気鉄道(現阪急阪神ホールディングス )の筆頭株主となり、プロ野球阪神タイガースの上場を経営陣に進言、TBS(現TBSホールディングス )に対しては経営陣による買収(MBO)を提案するなど物言う株主として注目を集めた。ニッポン放送株をめぐる証券取引法違反(インサイダー取引)の罪に問われ、11年に懲役2年、執行猶予3年の判決が最高裁で確定した。

世彰氏は通産省時代、コーポレートガバナンスと株式市場の活性化について研究を重ねてきたが、「父の考え方を浸透させるのには早過ぎた。日本に拒絶された部分もある」と絢氏は振り返る。一方、現在は安倍政権が日本再興戦略でコーポレートガバナンスの強化を掲げるなど、企業の経営効率向上は今や国策となり、配当や自社株買いなど株主を意識した経営にかじを切った企業は増えてきている。

絢氏は、父親が目指した理想に「時代の方が追いついてきた。父は日本が好き。父がやってきたことに携わり、上場企業に働き掛けながらより良い経営環境をつくっていきたい」と語った。

記事に関する記者への問い合わせ先:東京 佐野七緒 nsano3@bloomberg.net;東京 Tom Redmond tredmond3@bloomberg.net

記事についてのエディターへの問い合わせ先: Sarah McDonald smcdonald23@bloomberg.net 院去信太郎, 谷合謙三

更新日時: 2015/07/14 00:00 JST

 
 
 
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