(前回から読む)
居住するマンションの大規模修繕委員会(メンバーは1名、つまりひとり委員会)になった私(Y)。知識もノウハウもまったくない私は、弊社の建築雑誌「日経アーキテクチュア」の名物編集委員、マンションの鬼とも呼ばれる村田真氏を頼った。ところが、村田氏曰く…
マンションの大規模修繕には、業者側と住民(管理組合)側との間に、圧倒的な情報の非対称性がある。それを補うのが、施工業者と組合の間に入るコンサルタントだが、組合側にコンサルの力量や仕事を監査する能力がないため、施工業者と癒着するコンサルも多いのが実情。救いのない話を聞かされて、うめく私。
「うーん…情報の非対称性を補うためにコンサルと組むのに、下手すると、まさしく安物買いの銭失いってことでしょうか」
「そうなる可能性は確実に存在するね」
「そんな…じゃ、どうすればいいんですか。今からコンサル並みの知識を勉強するなんて無理ですよ」
村田氏は嘆く私にふたつ、アドバイスをくれた。
ひとつは、最初に管理組合の意思統一をしておくこと。
最低限どこを直すのか、どこはやらなくていいのか、つまり「どういう考え方で大規模修繕をやりたいか」をある程度固めておかないと、コンサルタントも手の付けようがない。知識はないが、すくなくとも自分の頭で考えているな、という印象を与えることができないと、質の悪いコンサルには足下を見られて「あれもしましょう、これもしなければ」とやられ放題になり、良心的なコンサルには「こんないい加減な理事会と組んだら大変だ」と断られる、という。「コンサル側にも、顧客を選ぶ権利があることを忘れないように」。
「といっても、本当に私、『どんなことをしなければいけないのか』から分からないんですが」(泣き顔)
「第1回目の修繕だよね? だったら話は実は簡単。『コンクリートを水から守る』ことを考えればいい」
「?」
第1回目の大規模修繕は、天井と壁に注力する
「マンションの躯体は鉄筋コンクリートで、引っ張り強度を支えるのはコンクリの中の鉄筋。ここに水が浸入して錆びてしまうと大変だ。だから、コンクリートの中に水が入らないように守る。つまり、屋上と外壁、廊下やバルコニーが、雨の浸入からきちんと守られているかを確認する。これが最優先」
「なるほど…」
「もうひとつは外壁のタイル。きっとYさんのところもタイル張りでしょ?」
「ええ(何を当たり前のことを、とこのときは思っていた)」
「だったらタイルの浮きや剥落がないかきっちり調べること。つまり第1回目の修繕のポイントは、突き詰めて言えば屋上の防水と外壁のタイル」
「言い換えると、外装の検査、補修ってことですね」
「そういうこと。エレベーターとか給排水とか、設備の補修や更新が発生するのは20年くらい経ってからの、2回目の大規模修繕の時期。これに予算を食われるから、第1回目は外装に絞って、できるだけ予算を抑えておく方がいいと思う。もちろん、検査の結果、意外なトラブルが出たら、対応せざるを得ないけれどね」