猫を追いかける作業(どうすれば野良猫に逃げられずにナデナデできるのか?)
猫を追いかけ続けてもう何年になるだろう?
僕はよく道で野良猫に遭遇する。そのたびナデナデしようと思って近づき、そして絶対に逃げられてきた。絶対、という点が重要だ。たまにナデナデできるとかじゃない。絶対に失敗してきた。僕の猫ナデリングの企ては100%の確率で失敗してきた。いいかい?100回やって1回成功したとかじゃない。100%失敗してきたんだ。つまり、一度も成功したことがないんだ。
おそらくこれまでの僕の人生の中ですでに1万回は野良猫と遭遇したはずだ。地元の街で、地方で、旅先で。そしてそのたび、僕は近づき、猫は逃げた。猫は絶対に体を触らせてはくれなかった。
散歩をしていて曲がり角を曲がる。野良猫がマンションの花壇前に座り込んでいる。さあ猫追い開始だ。僕は彼女に気づかれない位置までスニーカーをにじらせて近づく。彼女を思う存分撫で回してほくそ笑む自分の姿を思い描きながら。猫は耳をピンと立てて、敵が自分の安全領域を超えて侵入したことを察知する。首をこちらに少し傾け、大きな目を見開いて僕の存在を確認する。「侵入者だ!」猫は視床下部を通じて脳に緊急指令を出す。次の瞬間、彼女は全身にノルアドレナリンを分泌させ、Fight or Flight(戦うか?逃げるか?)の状態に入る。硬直する筋肉、そばだつ毛並み。侵入者は徐々に彼女との距離を詰める。緊迫する空気。数秒の沈黙のあと、彼女は前足でアスファルトを蹴って裏路地に逃げ込む。
10,001回目の猫追いが今日もこうして失敗する。
ここまで読んできて、あなたも猫追いがやってみたいと思ったのではないだろうか。なにより、ここまで読んだことがその証拠だ。
では、猫追いを開始する前に重要事項を再度確認しておこう。
【猫追いを始める前に簡単な説明書】
ナデナデ及びナデリングとは
説明の必要があるのだろうか。無論、猫をナデナデすることだ。撫でるのは頭だけじゃない。腹、尻、しっぽに至るまで、猫の体すべてを君の10本指、ときには頬を使ってこねくり回すことだ(このとき、できればハフとかホフヒとか、ハ行の擬音をふんだんに用いつつ、呼吸を必要以上に荒らげることも勧める)。猫がキレるくらいがちょうどいい。
最愛の恋人とのベッドインを想像していただければいい。似たようなものだ。
ナデリングとは、Nadering、つまりナデナデの現在進行形を指す、至って簡単なことばだ。
追う対象は野良猫であること
「ナデナデしたいなら猫を飼えばいいだよ」という静岡弁や「猫こうたらええやん」という大阪弁もどこかから聞こえてくる。これには、ふざけるな、と言いたい。それこそ邪道中の邪道だ。それはもはや追っていない。保有じゃないか。あくまでもプロの猫追いは猫を追う立場にいなければならない。それはまるでビジュアル系ロックバンドを追いかけて地方を巡業するグルーピーの女性のように、手に入らない対象を追う行為に美徳があるのだ。
この意味から、ナデリングを画策すべき対象は野良猫でなければならない。家猫や、変に手なずけられたニセ野良猫では話にならない。狙うべくは、凶暴な野良猫。来たるべき最終戦争に備えて爪を研ぎ、近づく人間に牙を剥く。もはや山猫。ライオン。ヒョウ。ピューマ。チーター。近づけば殺される。肉食獣たるネコ科のプライドをたたえた毛品のある野良猫。そんなレベルのびっくりするくらいなつかない野良猫こそを追う対象にすべきだ。さっきも記述したが、絶対に手に入らない対象を追いかける。ここに猫追いの全てが集約される。飼い猫をナデリングして何になるのだろう?確約された成功に君は満足しているだけだ。部屋を出て、野良猫を追いかけよう。
手ぶらであれ(唾棄すべきは邪道な猫追い共)
キャットフードや煮干しを片手に猫に近づく輩がいる。それで猫の注意を引き、ナデリングに成功していい気になっている。「やあ、俺はきょう3匹もの猫のナデリングに成功したよ」とか僕に自慢してくる。片腹痛い。もはや両腹が、つまりお腹が痛い。さっき腐ったブロッコリーを食べたからかもしれない。
はっきり言おう。えさを持って野良猫を傀儡(かいらい)せんとする行為。いわば野良猫に対するハニー・トラップ。これは猫追いとしては最低で、邪道だ。猫追いの風上にも置けない恥ずかしい連中だ。
ピュアな猫追いはいつだって手ぶらでなければならない。これは大事なことなのでもう一度言おう。ピュアな猫追いはいつだって手ぶらでなければならない。忘れっぽいあなたは紙に書いて壁に貼っておくことを勧める。これは禅思想にも通じるものだ。猫を追うとき、ムダなものは必要ない。煮干しなど持たず、手ぶらで、青空のように澄み切った心で猫を追いかけて欲しい。猫もきっとそれを望んでいる。もしこのテーマについてもっと詳しく知りたい方は、拙著「猫追いと禅」を一読することを勧める。
中には煮干しを持ってさえナデリングに失敗し、手の甲を引っかかれたやつもいる。まあ、私のことなのだが。
アクションプラン(きょうの行動計画)
では最後に、きょうあなたがすべきことをお伝えして筆を置くことにしよう。
1、1時間程度、家の近所をほっつき歩く
ふつうに歩いてはいけない。ほっつき歩かねばならない。口をぽかんと開け、どこを見ているのかよくわからない目で、鼻歌を歌いながら歩く。自動販売機のお釣り返却口を探ったりする。ツタヤに行ってCDもDVDも借りずに出る。母親に「あんたどこ行ってたん?」と言われて返答に困る。ほっつき歩くとはそういうことだ。もしほっつき歩く方法がわからないあなたには、これもまた拙著『人生がバラ色に変わる!地元の町をほっつき歩く101の方法』の一読を勧める。
2、少なくとも一匹のノラ猫を見つけて、追い、逃げられる
ほっつき歩けばだいたい野良猫の一匹くらいは見つかる。猫追いたるもの、見つけたら追う。追い方にもいろいろある。徐々に間合いを測りながら距離を詰めてもいいし、見つけ次第問答無用で猛ダッシュをしかけてもいい。だいたい連中はマンションの前に座っている。絶対に逃げられるが気にすることはない。猫追いとはそういうものだ。逃げられた時点で、猫追い完遂だ。さあ家に帰ろう。母親に「あんたどこ行ってたん?」と言われたら、無視するか舌打ちをしよう。
【最後に】
まあそんなことは絶対に起こりえないが、もし猫追いに成功し無事ナデリングを完遂したというあなたは私に報告して欲しい。賞金は出ないが、私から「え?何それ?ああ、もしかしてあのブログ記事の?あー、あー。わかった。よかったやん。うん。もうええ?はい。はい。はい。はーい。はーーーーーい」というありがたい賛辞の言葉をお送りしよう。ただし、煮干しを用いたドーピング行為をしていたり、対象が飼い猫だったり手懐けられた野良猫だったりした場合、ペナルティを与える。私はあなたが一生猫追い業界で住めないように制裁をくわえるから覚悟することだ。私をあまり甘く見ないほうがいい。私は顔が広い。あのドイツの猫追いのカリスマ「デヴィッド・ウンダーバー」や、アメリカはテキサス州でノラ猫を追いかけ続けて早80年生きる猫追いレジェンド「ロバート・アンダーソン」とも私は顔なじみだ。いいね、あまり私を甘く見ないことだ。
では、検討を祈る。