米アップルが6月10日、円建て社債を初めて発行した。その人気は発売時に毎回行列ができる「iPhone」にも引けを取らない。金融市場の投資家も待ちわびた「甘いリンゴ」が日本に上陸するまでの経緯を追った。
「あのアップルが、ついに円建てでも社債を出す」。日本で噂が最初に広がったのは今年4月初め。聞きつけた投資家は一様に沸いた。
アップルは最近、米国以外での社債発行を強化している。昨年11月にユーロ建てで28億ユーロ(約3900億円)、今年2月にはスイスフラン建てで12億5000万フラン(約1700億円)と、外貨建てで大規模な資金調達を実施してきた。「円建て社債も1000億円の大台を超えるのは間違いない」。日本の投資家はアップルの社債を「iBond」と名付け、その登場を心待ちにした。
アップルが本格的に動き出したのは4月下旬のことだ。国内・海外の投資家双方が購入できる「グローバル円債」として発行を検討。日本の投資家にアプローチすべく、5月の連休明けに電話会議を開くことを決めた。その取りまとめ役には米ゴールドマン・サックスと三菱UFJフィナンシャル・グループを指名した。
随所に見えた強気の姿勢
スマートフォン市場をリードしてきた「iPhone」に代表されるように、アップルは新製品を基本的に定価で販売してきた。自社製品に対する揺るぎない自信があるためだ。その価格戦略と同様の強気の姿勢が、今回の社債発行でも随所にうかがえた。
「円建て債の発行を検討しているのは、調達手段の多様化が目的。資金使途も一般的なものだ」。5月上旬、3回に分けて開いた投資家との電話会議。アップルの担当者は社債発行の目的をこうした説明にとどめ、具体的な内容は明かさなかった。当時は金利動向を見ながら、実際に社債を発行するかどうかを判断しようとしていたフシがある。
電話会議では、複数の投資家から要求する利回り水準について提案がなされたが、アップルがこうした要求に明確に答えることはなかった。
そして6月1日。アップルは円建て社債を出すことを決め、ゴールドマン・サックスと三菱UFJフィナンシャル・グループを主幹事に指名。正式に需要調査を始めた。