中国が人工島の建設を進める南シナ海のスプラトリー諸島(南沙諸島) Reuters

 中国が人工島の建設を進める南シナ海のスプラトリー諸島(南沙諸島)に米国が軍用機や軍艦を派遣する権利があるのかを巡り、米中両国は対立している。「海洋法に関する国際連合条約」(国際法)は、どちらが正しいかを決められるまでには至っていない。

【中国側の主張は?】

 中国は南シナ海のほぼ全ての島とその近海に主権を持つと主張している。同国はこれらの海域を定義していないが、「九段線」と呼ばれる境界が描かれた地図を発行している。九段線はベトナムとフィリピンの間を下ってインドネシア方面に向かい、実質的に南シナ海の全域を包含する。中国は九段線について、国際法で重要となる歴史的、あるいは法的な権利の裏付けがあるかどうか明確にしていない。南シナ海は世界で最も重要なシーレーン(海上輸送路)の一つだ。中国は自国の主張が民間船の通航を妨げることはないものの、外国の軍用船が領海内で活動すべきではないと述べている。

【米国にとって何が問題?】

 米国は、同国が公海と見なしている海域やその上空で軍用機や軍艦を活動させる権利があると主張。米軍は中国の沿岸近くまで監視活動などを定期的に行っている。中国は米軍艦がスプラトリー諸島にあまりに近づけば、重要な一線を越えることになると示唆。米当局者によると、中国が主権の範囲をあいまいなまま残しているため、理論的には、いつかは中国政府が外国の商用船の一部にも侵入制限を課す可能性があるという。米国にとってフィリピンは同盟国で、米国の法律に従って台湾の自衛を支援する義務がある。フィリピンと台湾政府は共に、この海域に主権を持つと主張している。

【国際法の規定は?】

 国際法は複雑だ。海洋法に関する国際連合条約によると、あらゆる国は海岸線から12カイリの領海を管理する権利を持つ。また、海岸線から最大200カイリまでを排他的経済水域(EEZ)に指定することもできる。EEZ内では漁業や採鉱などの経済活動を定期的に行うことが可能だ。外国の軍艦は国際法上で認められた「無害航行権」に基づき、ある国の領海を通航することはできるが、軍事活動を行うことはできない。外国の軍艦がEEZで取れる具体的な行動について、国際法に明確な規定はない。

【人工島が均衡を崩す?】

 米国と中国の周辺国は、中国が人工島を領有権主張のよりどころとし、力で主張を押し通すのではないかと懸念している。国際法は、国がEEZ内部に人工島を建設することを認めているが、海洋権益の主張は自然に形成された地形だけを基盤にできると規定している。米国とその同盟国、中国の周辺国は、中国が南シナ海上空に防空識別圏の設置を宣言し、それを領空内における他国の航空機への攻撃材料に使う可能性があると警戒している。人工島には、中国の軍用機が上空を巡回するのを可能にする施設がある。また、人工島を使えば、中国の航空母艦を補佐する滑走路を提供できることも懸念材料だ。人工島は中国本土の沿岸から約1000キロメートル離れた場所にある。

【火種は?】

 米国はスプラトリー諸島近海を含む南シナ海全域で監視などの活動を続けている。また、同国は人工島から12カイリ以内の海域まで海軍の軍艦や軍用機を派遣する計画を検討している(当局者はまだ実施していないと述べている)。一方、フィリピンは九段線に法的根拠はないと主張し、国連の仲裁裁判所に中国を訴えている。中国は海洋法に関する国際連合条約に署名しているが、国連による仲裁は拒んでいる。主要国の中で同条約を批准していないのは米国だけで、これが中国を非難する際に自分の立場をある程度、弱めてしまう。

楕円形の枠内は中国など6カ国・地域が領有権を主張するスプラトリー諸島(南沙諸島)

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