農業就業人口の減少や就農者の高齢化、さらには耕作放棄地の増大、異常気象の頻発など、人材と環境の両面で日本の農業は大きな課題を抱えている。そこで期待が集まっているのがICTなどの先端技術を活用して、省人化や農作物の効率生産と安定供給を目指す次世代農業「スマートアグリ」だ。
スマートアグリの1つとして、ICT技術を活用した植物工場の開発も盛んになっている。特にこの植物工場事業に注力しているのが製造業で、富士通、シャープ、トヨタ、日本GEなどの大手企業を筆頭に、多くの企業が新たな収益源として事業化を進めている(関連記事)。その1社であるパナソニックは2015年5月22日、東京都内で会見を開き、同社の植物工場事業の方針と今後の展開について説明を行った。
パナソニックは4つの社内カンパニー制を敷いて事業運営を行っているが、アグリ事業については各事業部を横断する形で取り組んでいる。2013年からアグリ事業の一環として、パナソニック AVCネットワークスが所有する福島工場内に植物工場の建設を開始。同工場はデジタルカメラの生産施設を改修したもので、実証エリアとして2014年3月から稼働を開始している。栽培したレタスなどの野菜は、現在、福島県内の約30の店舗に提供しているという(図1・2)。
植物工場は光源に太陽光を利用する太陽光併用型と、LED証明などの人工光を利用する人工光(完全閉鎖)型に大きく分けられる。パナソニック AVCネットワークスが提案を進めている植物工場は後者のタイプだ。どちらにおいても、光源、CO2濃度、培養液、室温などの農作物の育成環境を人工的に制御する技術がポイントになる。
製造業が植物工場事業を手掛ける理由には、こうした植物工場で必要とされる機械設備や装置の開発および運営のノウハウ、照明や空調に関する技術を既に保有しているという点が挙げられる。パナソニック AVCネットワークス アグリ事業推進室 主幹を務める松葉正樹氏は、「パソニックの植物工場は家電事業で培った工場でのモノづくりの考え方やノウハウを生かした“工業的アプローチ”を取り入れているのが特徴。従来、経験と勘頼りだった農業を“工業化”して、より生産性の高いものに改革することを目指している」と語る。
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