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現場主義の経済学

「世界が日本に迫る消費税増税」報道の幻

2015年05月26日(火)16時34分

 OECDは先日、2年ごとに取りまとめる対日経済報告書を発表しました。「あれ?」と思ったのはグリア事務総長による公表記者会見の模様を伝えた報道について。日本の主要メディアが消費税増税に前向きな発言だけをピックアップする姿勢は以前からなので、さほど驚きはしないのですが、具体的な消費税率について「15%に引き上げるべき」としたところもあり、「20%程度へ」としていたものもあり、数字がバラバラ。これはいかに?

 実際のところグリア事務総長は正確にはなんと言っていたのか、との疑問がわいてくるわけで、それ以前の話として、具体的な数字をあげて消費税の引き上げをせよなどと、個人的な見解ならともかく、仮にも公式記者会見の席で指摘することがあるだろうか?と思うわけです。というのも税制は国家の主権に関わる大きな問題であり、国外からの直接的な口出しは内政干渉に該当するというのが国際社会でのいわば通念。余談ではありますが、2014年消費税が8%に引き上げられる直前にも随分と消費税増税は国際公約と喧伝されました。消費税が国際公約になるか否か?この内政干渉の問題がネックとなりますから、そもそも国際公約とするのはおかしな話なのです。

 であるからこそ、先日紹介した米国財務省の為替報告書の中でも、消費税増税後の日本の実体経済の落ち込みはしっかり検証、シビアな分析をしつつも、消費税そのものについて、例えば実体経済が疲弊しているのだから日本はただちに消費税を引き下げるべきであるとか、消費税をなくすべき、といった具体的な提案まで米国サイドが踏み込むことはありません。米財務省も内政干渉となるのを承知しているでしょうから、税制度についての書き方に留意するのは当然です。

 知り合いの通信社の方にグリア事務総長の発言内容を確認したところ、件(くだん)の記者会見に実際に出席した記者によれば、会見の場で事務総長ははっきりと数字を言った訳ではない、とのこと。聞いたこちらも「そりゃ、そうでしょうねえ」としか言えないわけで、後日OECDのHPでアップされた事務総長の記者会見の内容をあらためて確かめてみました。


The hike in the consumption tax to 10%, which was postponed until 2017, should be implemented as planned. Even at 10%, the rate will remain about half the OECD average! Further revenues could come from raising the consumption tax closer to the OECD average, as well as broadening the personal and corporate income tax bases and increasing environmental taxes.

2017 年まで消費税の引き上げは見送られたわけですが、10%は予定通り施行されるべきです。10%でもOECD平均の約半分です!所得税や法人税の課税ベースの拡大・環境税の増税だけでなく、OECD平均の近くまで消費税を引き上げれば、歳入増を見込めるでしょう。

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岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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