<仙石線全線再開>交流人口拡大へ連携/(3)観光/震災の教訓発信にも力
<新たな施設続々>
東日本大震災で大きな被害を受け、復興の途上にある石巻地方にとって、JR仙石線の全線再開は交流人口拡大のまたとない好機となる。
宮城県女川町観光協会の鈴木敬幸会長(63)が意気込む。「仙石線の全線再開で仙台圏、さらに首都圏と鉄路でつながる。多くの観光客を呼び込みたい」
町は3月、JR石巻線の全線復旧に伴い「まちびらき」を宣言。新築の女川駅から一望できる町中心部では復興まちづくりが進む。
その一角に6月14日、本格的な集客施設が開業する。水産業体験館「あがいんステーション」だ。女川港でホタテやカキ、ホヤなどの水揚げを体験し、調理して味わえる。
周辺では年内に、多目的ホールや音楽室などを備える「地域交流センター」(仮称)、被災事業者らが入居するテナント型商店街などもオープンする見通し。
鈴木会長は「水産業を楽しみ、ゆったりとした時を過ごし、買い物もできる。訪れた人に心地よさを感じてもらえるようにしたい」と展望する。
<駅前で共同販売>
石巻市と東松島市、女川町の観光は震災で大きな打撃を受けた。観光客数は2010年は約443万に上ったが、11年は約191万に激減。それでも、13年は約275万、14年は約282万と回復傾向にある。
「リピーターを増やせるよう、力を合わせ知恵を絞っていく必要がある」。女川町の仮設商店街「きぼうのかね商店街」の島貫洋子副会長(59)は言う。
町内の商業関係者らが5月の大型連休中、女川駅前で地元の特産品を用いた食べ物やお土産を売り出したところ、大勢の客でにぎわった。以前から「どこで食事や買い物をすればよいか分かりづらい」といった声が観光客らから寄せられていたことから、駅前で共同販売に取り組んだ。
石巻市の水産加工会社や農業生産法人などでつくる「石巻うまいもの発信協議会」の千葉雅俊会長(62)は、石巻の市街地に共同開発商品の販売拠点を設ける構想を描く。「全線再開は集客のチャンス。商品開発やファン獲得に努める」
仙石線で観光や旅行を満喫する傍ら、震災の教訓に触れてほしいと願う関係者も多い。
石巻市の地域づくり団体「みらいサポート石巻」は震災で家族を失った語り部らによる講話などを展開する。関東や東北、中部などから申し込みが多く、約4分の1は小中高校や大学の教育旅行だ。
スタッフ佐藤茂久さん(63)は「津波発生時の避難の在り方などは全国に伝えなくてはいけない。命を守るため、教訓を学ぼうとする人はできる限り受け入れたい」。仙石線全線再開はその導線ともなる。
2015年05月28日木曜日